【特集】俵返しにかけた勝利への執念が不発…男子グレコローマン84kg級・松本慎吾(一宮運輸)【2007年9月18日】







 3年連続で10位以内を確保していた男子グレコローマン84kg級の松本慎吾(一宮運輸)が初戦で不覚! 昨年3位で今年のアジア王者のサマン・タフマセビ(イラン)に1−2で敗れた。タフマセビが4回戦で米国に負けたため敗者復活戦へ回れず、五輪出場資格の獲得は来春にお預けとなった。

 8月初めの「ニコラ・ペトロフ国際大会」(ブルガリア)で勝っていた相手。今回は、第3ピリオドまでの3度のグラウンド攻撃での俵返しをすべてカットされてしまった。油断があったわけではないだろう。松本は「組まさせないようにされた」と振り返り、必殺の俵返しが完全に研究されていたようだ。

 そのことは、第3ピリオド、0−0のあとのグラウンドの攻撃権を取ったタフマセビが、本気になって攻撃しているようには見えないことからも感じられた。「防御では、絶対に守り切れる」−。そんな自信が表れていたような表情と動きだった
(右写真=第3ピリオドのラスト30秒、松本の俵返しの組み手が防がれてしまった)

 第1、2ピリオドの俵返しを防がれたことで、勝負の第3ピリオドはガッツレンチに方向転換することはできなかったのか。その疑問を松本にぶつけると、「あの場面では、あの技で…」といった意味の答え。悔いが残らないように必殺技にこだわったのだろう。豪速球投手が、変化球を投げて勝負に負けた時にはとてつもない後悔が残るように。

 だが、グラウンドの攻防が取り入れられて約2年半が経ち、どの国の選手も俵返しの防御には力を入れている。松本もこのあたりでガッツレンチやがぶり返しに活路を見出すことも必要なのではないか。日本協会の高田裕司専務理事(山梨学院大教)は「よほどの実力差がない限り、もう俵返しはかからなくなった」と分析。俵返しにかける執念もいいが、最後の勝負は「ガッツレンチだったのでは?」と疑問を投げかけた。

 嘉戸洋コーチ(環太平洋大教)は「デフェンスです」と、課題はグラウンドの守りであると指摘。第1ピリオドの防御で、ガッツレンチを許してしまったことを敗因に挙げた。そこでしっかり守っていれば第1ピリオドを取れたわけで、結果論になるが、そうなれば第3ピリオドにもつれることなく勝てていた。

 前日、銀メダルを取った笹本は、決勝でこそ見事なバック投げを受けてしまったが、準決勝までの4試合にはすばらしい防御を見せ勝ち抜いた。「メダルを取っている選手は、みんな防御が強い。防御が大事です」と嘉戸コーチ。破壊力抜群の大砲を生かすために必要なものは何かを見つけ、克服していくことが、来春、そして北京オリンピックまでの松本の課題となりそうだ。

(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)



《iモード=前ページへ戻る》

《前ページに戻る》