【特集】世界選手権へかける(20)…女子55kg級・吉田沙保里(ALSOK綜合警備保障)【2007年9月14日】







 一昨年はオリンピック・チャンピオンとして臨む初めての世界選手権。昨年は区切りの国際大会100連勝のかかった大会だった。今年は北京五輪の代表権獲得をかける大会。周囲からは圧倒的な強さを持ち、楽に優勝できそうに見える女子55kg級の無敗の女王・吉田沙保里(ALSOK綜合警備保障)だが、いつもプレッシャーとなりうる何らかの壁ができ、目に見えない敵との闘いが存在する。

 だからこそ慢心が入らず、必死になって練習に打ち込めるのだろう。今年の場合、出場選手が35選手を超える可能性が出てきた。組み合わせによっては6試合をこなさなければ優勝できない。予定では、昨年と同じく準決勝までを一気にやってしまうスケジュールで、最悪の場合、午前セッションの約4時間で5試合をこなさなければならなくなる。

■4階級上の選手ともスパーリングし、外国選手のパワー対策を積む

 「去年は、試合と試合の間が15分くらいしかない時もありました。きつかったです」。くじ運が悪く、次から次へと強豪と対戦する組み合わせだった。全試合を2−0で勝ったとはいえ、このハードスケジュール下での強豪相手の連戦の苦しさは、今でも体に残っているようだ。

 そこで生きてくるのが、今年に入ってからこだわっているフォール勝ちだ。1分で試合を終えてしまえば、4分間(あるいは6分間)闘うよりスタミナを浪費しないのは言うまでもない。

 「フォール勝ちすれば、その後の展開が楽になります」。1月の全日本選手権は1回戦=0分40秒、準決勝=0分43秒。4月の「ジャパンビバレッジクイーンズカップ」は2回戦(初戦)=0分28秒、準決勝=0分27秒。5月のアジア選手権(キルギスタン)は1回戦=0分57秒、準決勝=0分24秒。フォールによる圧勝によってどれだけ以後の試合を楽に闘えるかを経験してきた。それだけに、フォール勝ちにこだわりたい。

 問題は、トップ選手同士の場合はそう簡単にフォールはできないこと。フォールにこだわった挙げ句にフルタイム闘ってしまった場合のスタミナのロスは、1ポイントをリードして後の時間を流して闘うのに比べるとはるかに大きくなり、以後の試合にマイナスになりかねない。

 だからこそ、タックルから一気にニアフォールへ追い込み、確実に決める練習を積んできた。合宿では、時に72kg級の村島文子(中京女大ク)や佐野明日香(自衛隊)とも練習を積んでいるのも、「外国選手に対するパワー対策のため」だ。フォールを狙う以上は絶対に決めなければならない。そんな決意の表れでもある4階級上の選手相手の壮絶スパーリングだ。

■初顔合わせとなる中国選手だが…

 昨年までより多くの選手が出場するものの、吉田の敵となりうる選手は3年連続欧州チャンピオンのナタリア・ゴルツ(ロシア)、アテネ五輪準決勝で苦戦したアンナ・ゴミス(フランス)、同決勝の相手のトーニャ・バービック(カナダ)らに限られている。過去の対戦成績からすれば吉田に大きな利がある。

 中国は今年のワールドカップ個人優勝の選手で、過去闘ったことのないリ・シュがエントリーしてきた。17歳の若手選手とはいえ、ワールドカップで米国の世界選手権代表にもなったマルシエ・バン・デュセンを2−0で下している選手。吉田の試合をビデオで徹底的に研究しているはずで、逆に相手のデータの少ない吉田にはやりづらい状況と考えられる。

 しかし吉田は「私のことを分からない相手とは、やりやすいです」ときっぱり言う。いくらビデオで研究しても、闘ってみなければ相手の強さは分からない。ビデオで研究して、それで相手のすべてが分かるようなら苦労はしない。多くの修羅場を経験してきた吉田だけに、初顔合わせの選手には絶対に負けないという決意が感じられる。

 この1年間、連勝記録と北京五輪での2連覇のことを何度聞かれたことだろうか。その度に、嫌な顔をすることなく、「北京五輪まで無敗を続けて、オリンピック2連覇することが目標」と繰り返した。

(文=樋口郁夫)



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