【特集】世界選手権へかける(19)…男子グレコローマン96kg級・加藤賢三(自衛隊)【2007年9月13日】







 今年の世界選手権代表チームの中には、男子フリースタイル96kg級の小平清貴(警視庁)をはじめ、北京五輪を選手生活の集大成とにらんでいる選手が多い。男子グレコローマン96kg級の加藤賢三(自衛隊=
左写真)も北京五輪というゴールを目指して4度目の世界選手権のマットに立つ。

 長年にわたって重量級の課題とされてきた日本と世界のパワーの差。3年前のルール改正は、スタンド型の加藤にとっては不本意なルール改正だった。しかし、ルールに沿った強化をはかるのがプロ。そのため、昨年、加藤は思い切った強化方法を取った。週6日のうち4日間をウエイトトレーニングに充て、マットでの練習を二の次にし、肉体改造に取り組んだ。

■前年の世界王者相手に投げ技を決める!

 その効果もあって、2003・05年と勝ち星なしに終わった世界選手権で、昨年は敗者復活1回戦で初白星を挙げることができた。しかも、ポイントはパワーを要するローリングで奪った。敗者復活2回戦では元五輪王者のハムザ・イェルリカヤ(トルコ)から得意の首投げでポイント奪取
(右写真)。最終的に敗れたものの、「ウエイトトレーニングの効果が出ている」と、北京五輪に向けて希望を見出した大会となった。

 スタンドでの攻撃は世界で引けを取らない。あとはパワーをつければ世界に通用する―。この思いで今年も全体練習の半分をウエイトトレーニングに割き、ベンチプレス150kg、ハイクリーンは135kgまで数字が出るまで仕上げてきた。

 9月上旬、試合を10日後にひかえる加藤に世界選手権の具体的な目標を聞いた。しかし、加藤は「がんばります」の一言を繰り返すのみ。その言葉の真意は実に深刻なものだった。

 8月の「ニコラ・ペトロフ国際大会」(ブルガリア)で加藤は2試合ともフォール負けに終わっている。「いい練習になりました」と気丈に話したが、コーチ陣に内容を確認すると、1回戦で戦った世界チャンピオンとの試合では、リフトされてそのままフォールされるなど屈辱的な負け方だったようだ。

■海外遠征で味わった挫折を乗り越えられるか

 パワーの優劣がそのまま勝敗に結びつくルールのため、必死にウエイトトレーニングに取り組んだが、世界チャンピオンの前ではまったくその効果を発揮できなかった。海外選手との差はなかなか縮まらない。この状況で五輪出場権がかかった世界選手権を迎える加藤の心境ははかり知れない。

 自衛隊のあるコーチは「少し落ち込んでいると思う」と加藤の気持ちを代弁した。また100日合宿へも加藤の階級は参加対象外となり、女子や男子の軽量級と強化扱いに差があり、それが加藤の気持ちに拍車をかけているのかもしれない。

 「でも、これをバネに這い上がってほしいね」(自衛隊コーチ)。ことしの世界選手権は加藤にとって正念場となりそうだ。日本の重量級は今、世界でなかなか勝てない状況だ。「世界選手権へは無心……無の心境で戦ってきます」(加藤)。それでも加藤らは己の力を信じてアゼルバイジャンへ乗り込んでゆく。

(文=増渕由気子)



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