【特集】世界選手権へかける(12)…女子63kg級・伊調馨(ALSOK綜合警備保障)【2007年9月6日】








 アテネ五輪を含めて5度世界の最高峰に輝いている選手の余裕だろうか。女子63kg級の伊調馨(ALSOK綜合警備保障=
左写真)は、今年の世界選手権の目標に、日本協会が金メダル獲得に対して与える「北京五輪の出場権獲得」のほか、「姉の千春(48kg級)に優勝させること」を掲げた。姉の階級に、出産のために昨年は出場しなかったアテネ五輪金メダリストのイリナ・メルニク(ウクライナ)が出場することが確実になり、全面的にバックアップ。自らの練習の合間に、メルニクになり切って姉の練習相手を務めている。

 世界選手権の日程は、姉・千春の試合が21日で、自分の試合が翌22日。姉がつまずけば、自分の試合にも影響しかねないことは確かだ。姉に難敵を倒して優勝してもらい、その勢いをもらって自らも6度目の世界一に輝きたいことだろう。

■宿敵のS・マクマン、許海燕ともリベンジに成功

 しかし、自らの闘いが精いっぱいなら、姉の優勝を願いこそすれ、姉とともに打倒メルニク対策を研究する余裕が生まれるはずはない。自らの優勝に大きな自信があればこそ、姉のことも考えられる。今年の伊調馨の試合は、昨年まで以上に安心して見られそうなムードだ。

 宿敵と呼べる選手は、ここ数年のうちにすべて“片付けた”。国際大会デビュー戦でもある2002年のアジア大会で敗れた許海燕(シュ・ハイアン=中国)には、昨年の世界選手権決勝で4年ぶりにリベンジ
(右写真)。その2ヶ月半後に行われたドーハ・アジア大会でも勝ち、対戦成績を2勝1敗と勝ち越した。

 2003年3月の「クリッパン国際大会」(スウェーデン)で敗れたサラ・マクマン(米国)は、その後5連勝をマーク。もう負けたことが意識の底にも残っていないことが予想され、得意意識すら持って闘うことができそうだ。

 もちろん、対戦成績で勝ち越したからといって、次も勝てる保障があるものではない。許海燕との4年ぶりの再戦では、4年前の敗戦が意識から消えず、「腰が引けて積極的に攻められない自分がいた」という。アジア大会で勝ったとはいえ、2ピリオドとも0−0でクリンチにもつれた末の勝利で、コイントスで負けていたらどうなったか分からない内容。トラウマが完全に消えたものかどうかは、次に闘ってみなければ分からない。

 他に、59kg級で世界一を経験しているアレナ・カルタショバ(ロシア)が、世界V8の名コーチ、セルゲイ・ベログラゾフ(ロシア)の指導を受けてどんなふうに成長しているかなど、油断してはならない状況はある。だが、4年以上もの間、国内外で負けなしという伊調の実績は、周囲に大きな安心感を与えてくれる。

■連勝記録ストップは眼中になし! あるのは姉妹での五輪優勝

 記録のうえでは、今年5月に連勝がストップしてしまった。アジア選手権(キルギス)で、世界選手権への出場権を得るためにやむをえずマットに上がり、不戦敗となって4年2ヶ月ぶりに相手の手が上がるシーンを経験。国内外の連勝記録は「81」でストップしてしまった。

 だが伊調は、連勝記録のトップを走る吉田沙保里ほど、この記録にこだわっていた様子はない。今回の黒星も「けがのためですから…」とサラリと受け流し、「(連勝記録は)最初から考えていませんでした」とさえ言う。

 確かに、どのスポーツでも記録というのはマスコミが意識させるものが多く、目の前の1戦1戦を全力で闘っている選手は、言われなければ意識していないケースは多い。伊調にとって、連勝記録というのはこだわる記録ではなかったようだ。その分、強い意識をもっているのが北京五輪での姉妹優勝。これだけは絶対に譲れない記録だ
(左写真=昨年、3年ぶり2度目の姉妹世界一を達成)

 その不滅の金字塔達成のためにも、今年の世界選手権は姉妹で一丸となって闘う。1+1が3にも4にもなる姉妹タッグの強さが期待される。

(文=樋口郁夫)



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