【特集】世界選手権へかける(6)…男子グレコローマン66kg級・飯室雅規(自衛隊)【2007年8月31日】








 今年の世界選手権に6選手を送ることになった“躍進”自衛隊。男子5選手の中で中心的な存在になるのがグレコローマン66kg級の飯室雅規
(左写真)だ。6度目の世界選手権。過去5度の大会での上位入賞はないものの、昨年12月のドーハ・アジア大会で銅メダルを獲得し、自信をつけている。ひと皮むけた飯室が見られそうだ。

 「あの銅メダルは大きな力となりました。試合で自分の力を出し切れるようになりました」。それは今夏のブルガリア遠征でも証明された。合宿中に行われた練習試合で2005年の世界チャンピオンのニコライ・ゲルゴフ(ブルガリア)に2−1で勝利。「俵返しもかかりました」とサラリと話し、ことさら大きな出来事とはとらえていないところが頼もしく感じる。

■世界1位・2位、恐れるに足らず!

 昨年の世界王者の李岩岩(中国)は、05年の世界選手権で闘い不覚の警告で敗れた相手。次に闘うことがあっても負ける気はしないし、「絶対に負けることはない」と自信を持つ大学王者の板倉史也(青山学院大)が今年2月に下している事実をもってしても、恐れる相手ではない。

 同2位のカナトベク・ベガリエフ(キルギスタン)は、6月にキルギスタン・チームが来日した時に手合わせし、やはり「ずば抜けた強さは感じない。練習試合は1−2だったけど、(全日本選抜選手権3位の)江藤紀友が勝っている。勝てない相手ではない」ときっぱり。ただ、減量のない状態での闘いと体重を落としての闘いは違うことを認識しており、「いかに減量をしっかりするかが大事になると思います」と言う。

 また、世界選手権ではワンマッチでの強さがあっても上位入賞はできない。五輪出場資格獲得の8位入賞するためには3試合も4試合も続けざまに試合をしなければならず、世界王者級の選手との実力比較が、そのまま成績となって出てくるものではない。五輪キップは簡単には手に入らないが、ここ2年間の、そして昨年末からのさらなる昇り調子に乗れば、十分に実現可能なことだ。

■2005年5月のルール改正で追い風が吹いた

 滋賀・日野高校時代の1995年のJOC杯ジュニア選手権(現在と年齢区分は違う)で優勝。拓大へ進み、3年生で全日本学生王者と力を伸ばし、00年に世界学生選手権6位入賞と全日本選手権初優勝。ここまでは順調に実力をつけていった。

 しかし、そこからの伸びが今ひとつだった。全日本選手権は7年連続優勝を達成するなど文句なしの成績だったが、世界での結果が出なかった。世界選手権は01、02年と2大会連続で2戦2杯。03年に初勝利を挙げたものの、上位入賞には程遠い順位で、結局、アテネ五輪のマットに立つことはできなかった。

 「技術的には素晴らしいものがある。自信を持って闘わないから、勝てないんだ」と厳しく言い放ったのは自衛隊の宮原厚次監督。国内で見せていた実力を海外ででも発揮できれば、十分に予選を勝ち抜けたと思われただけに、もったいない結果だった。

 飯室の転機となったのが、2005年5月のルール改正だった。クロス・ボディ・ロック(俵返しの組み手)でスタートするルールが飯室にぴったりとマッチ。そのルールが最初に採用されたアジア選手権(中国)で銀メダルを取ったことで、飯室の表情が変わってきた。

 自信とは勝つことによって身についていくもの。06年8月には、世界選手権の前哨戦と位置づけられ、欧州で最高レベルの大会「ピトラシンスキ国際大会」(ポーランド)で5位入賞。結果もさることながら、「3位決定戦はラスト3秒まで勝っていた」という内容に、いっそうの自信が沸いてきた。1ヶ月後の世界選手権でこそ結果は出なかったものの、アジア大会で銅メダル獲得
(左写真)。もうマットの上で、自信のない表情の飯室を見ることはないだろう。

 同期の笹本睦(60kg級=ALSOK綜合警備保障)がガッツレンチ(ローリング)に活路を見出してアジア王者になったのに対し、飯室は「俵返しにこだわります」ときっぱり。バクーのマットで、世界の強豪を宙に浮かせるシーンを、ぜひとも実現してほしい。

(文=樋口郁夫)



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