【特集】世界選手権へかける(3)…男子グレコローマン60kg級・笹本睦(ALSOK綜合警備保障)【2007年8月28日】








 昨年12月のドーハ・アジア大会で、男子でただ一人、メーンポールに高々と日の丸を上げたグレコローマン60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障=左写真)。シドニー五輪出場の時から目標だったアルメン・ナザリアン(ブルガリア=1996年アトランタ五輪・00年シドニー五輪ほか世界選手権3度優勝)越えを2005年夏に果たしており、今年3月の米国遠征では現役世界王者のジョー・ウォーレン(米国)を圧倒。「世界王者になれるだけの実力はある」(日本協会・富山英明強化委員長)と信頼度を増している。

■アジア大会金メダルの過去は捨てた!

 しかし笹本は、アジア大会金メダルの勲章は「過去のもの」として、特別な意識を持っていない。ある時にいい成績を残しても、それがいつまでも続くものではないことを十分に知っている。事実、打倒ナザリアンを果たし、世界一を目指して臨んだ05年の世界選手権は10位どまり。06年は3月の「ポーランド・オープン」と「ニコラ・ペトロフ国際大会」で連続3位に入賞しながら、世界選手権は痛恨のフライングもあって初戦敗退の不振だった。

 過去の実績、あるいは直近の大会の成績が必ずしも当てはまらないのが世界での闘い。そんな経験をしていればこそ、アジア大会の金メダル獲得で慢心が入る余地はない。

 逆に、今夏の遠征で出場したグルジアとブルガリアの2度の大会で結果が出なかったことも、大きなつまずきとは考えていない。アテネ五輪は、その2ヶ月前の欧州遠征で出場した2大会で結果を出すことができなかったにもかかわらず、5位入賞(世紀の誤審がなければ4位以上)という好成績を出している。

 すなわち、この種の大会出場は練習の一環であり、結果だけを求めて闘う必要はない。どんな目的をもって闘うかが大事なのであり、自分の苦手なことを積極的に試すことなどが大切。笹本は今回、「審判のジャッジの感触を確かめ、どんな審判をするか」という目的を持って闘ったとのこと。

 「ニコラ・ペトロフ国際大会」(ブルガリア)は、昨年世界3位のブヤチェスラフ・ザステ(ロシア)相手に、2度のフライングが原因で敗れたわけだが、リフトを仕掛けるタイミングで、どこまでがフライングと取られるかどうかを試したと考えれば、世界選手権へ向けて貴重な経験をしたと考えられる。

■「ササモト」といえば、「俵返し」か、それとも「ガッツレンチ」か

 今春の米国遠征では、世界王者と手合わせし(世界選手権は、当初米国代表だった前述のウォーレンではなく、ジョー・ベターマンがエントリーされている)、グルジア合宿では世界2位のデビッド・ベディネーゼ(グルジア)を研究。ブルガリア合宿では、宿敵のナザリアンはいなかったものの、欧州数ヶ国と韓国選手などと練習を積んだ。

 6月には来日したキルギスタン・チームの66kg級世界2位の選手に積極的に挑み、アジア王者になったあとも外国選手との闘いを数多く積んできた。こうした経験は、自らの実力養成に必要であるばかりでなく、外国の選手に「ササモト」という存在を植え付けるためにも必要なこと。アテネ五輪でナザリアンを追い詰めた日本のマッスルマンの存在は、アジア大会優勝、そして積極的な海外遠征によって外国選手の頭にさらに強く刻まれていることだろう。

 そのアジア大会では、必殺の俵返しにこだわらずにガッツレンチ(ローリング)に活路を見出す作戦を展開
(左写真=決勝でガッツレンチを決める笹本)。これが当たり、「ササモト」といえば「俵返し」と警戒していた外国選手をことごとく破った。

 その時、「俵返しはもう使わないの?」との問いに、「次はやりますよ。やりたくなりました」と答えた。今度の世界選手権は、俵返しが爆発する番? 「ササモト」といえば、「俵返し」か、それとも「ガッツレンチ」か。闘いの幅が広がったアジア王者が、世界選手権でのメダル獲得を狙う。

(文=樋口郁夫)



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