【特集】世界選手権へかける(2)…男子フリースタイル55kg級・松永共広(ALSOK綜合警備保障)【2007年8月27日】








 2年ぶりの世界選手権のマットだ。2002年の世界学生選手権優勝を初め、国際大会で6個の金メダルを取っている男子フリースタイル55kg級の松永共広(ALSOK綜合警備保障=
左写真)は、他人の活躍を日本にいて聞かなければならなかった昨年の悔しさをバクーのマットにぶつける。

 国際大会6度優勝の実績が示すように、世界で通じる実力は十分。2年ぶりの世界選手権とはいえ、焦りはない。今夏は全日本チームの欧州遠征に加わらず、左ひざの負傷の治療を兼ねて日本で調整したのも、焦りがなければこその決断。ふだん練習している日体大には、練習相手に不自由はせず、「しっかりした練習ができたと思います」と振り返る。

■ハイレベルの日本55kg級! それが松永の力もアップさせている

 左ひざのけがは今春スクワットをしている時に起きた。「バキバキという音がした」そうで、診断の結果、半月板が損傷していた。6月の明治乳業杯全日本選抜選手権では、その状態で勝ち抜いた。「右もやったことがあるんです。こういう状態で闘うことに慣れているんですよ」と苦笑いし、「選手は誰もがこの程度のけがはしていると思います。問題ありません。けがとうまくつきあっていきたい」と話す。闘えないほどの負傷ではなく、心配はないようだ。

 全日本チームの欧州遠征では、代わって参加した湯元進一(自衛隊)がロシアとブルガリアの大会で連続優勝という快挙を成し遂げた。「ダン・コロフ国際大会」(ブルガリア)では、2005年世界選手権の3位決定戦
(右写真)で松永が敗れたモンゴル選手に2ピリオドともテクニカルフォールで勝つという圧勝。今は国内の闘いを考える必要はないが、ライバルの躍進に不安な気持ちが芽生えてもおかしくはない。

 しかし松永は「相性がありますしね。3月には(自分もモンゴル選手に)勝っていますし。日本のレベルがそれだけ高いということだと思います」と、自らのエネルギーに変えようとしている。それでも、湯元が楽勝した相手には「次に闘う時には絶対に負けられない」という意識を強くした様子はある。

 ライバルの存在は、選手をより強くするもの。昨年日本代表を譲ってしまった田岡秀規(自衛隊)を初めとした国内55kg級全体の底上げが、松永の実力と意識を高めてくれているのは確かだ。

■目指すは2003・05年世界王者のマンスロフ(ウズベキスタン)

 世界の55kg級では、昨年はアジア大会専念のため世界選手権には不出場だったが、2003・05年世界王者のディルショド・マンスロフ(ウズベキスタン)が首ひとつ抜け出している状況。それを追って、昨年世界王者のラドスラフ・ベリコフ(ブルガリア)、世界2位のベシク・クドゥコフ(ロシア)のほか、キューバ、米国、モルドバ、イランなどが横一線で並んでいると見ている。

 「マンスロフを追う第2グループの選手が多いですね」。松永自身もそのグループに入っている自覚はある。過去2度のマンスロフとの対戦や、今年3月のブルガリア合宿でのベリコフとの手合わせで、それは希望ではなく確証だ。

 いかにして第2グループの闘いに勝ち抜き、マンスロフへ挑むか。組み合わせ次第では、第2グループの先頭を切ってマンスロフ崩しに挑まねばならない。「去年の悔しさは無駄にしたくない。考えてレスリングをするようになりましたし」。昨年、世界とアジアの大会を外からながめることになり、一見すると世界一争いに遅れをとった松永だが、そうした経験も飛躍のエネルギーとして必要な場合もある。1年間の悔しさを最大に爆発させれば、世界選手権での表彰式にその姿を見ることができるだろう。

(文=樋口郁夫)



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