【特集】強さを求めて日体大へ乗り込んだグレコローマン55kg級・長谷川恒平が社会人初戴冠【2007年7月10日】







 男子グレコローマン55kg級の長谷川恒平(焼津福一=左写真)が7月7日に行われた全日本社会人選手権で優勝し、社会人初優勝を遂げた。高校7冠王者という実績を引っ下げ鳴り物入りで入学した青山学院大を今年3月に卒業。日体大の科目等履修生となり、現在体育の教員免許を取得しながら、レスリングを続けている。練習拠点は青学大から“レスリング界の雄”日体大に移った。

 部員80人をかかえる日体大にたった一人で乗り込んだ。大学によってそれぞれの色があるため、環境に適応できるか不安もあっただろう。だが、「実際に行ってみたら、先輩から後輩までみんな良くしてくれる。先生方もよく声をかけてくださいます」と、すぐに溶け込んだようで、日体大の「NSSU」のジャージも似合ってきた。

■豊富な練習相手の中で成長

 学生時代は両スタイルで活躍した。主要大会にはグレコローマンで出場し、全日本学生選手権2連覇。4年生の昨年は国体も制した。フリースタイルでもレスリング・センスを遺憾なく発揮し、全日本大学選手権では2年の時から3連覇した。

 青学大時代は少数精鋭の環境。モチベーションを高く持つことができて結果を残すことはできたが、部員が10人そこそこで練習相手がマンネリ化してしまうのが悩みだった。4月からは練習相手が豊富な日体大で毎日練習を積んでいる。最大のメリットは、世界のレスリングを知る日本代表の笹本睦(60kg級)や松本慎吾(84kg級)から技術指導が受けられること。すでにローリングのデフェンスのポイント、タックルの変化の仕方などを伝授され、長谷川自身も成長している実感があるようだ。

 今までの長谷川の弱点はグラウンドだった。現行ルールはいかにスタンドが優れていても、開始1分を経過したら攻守を入れ替えてパーテールポジションからの勝負になる。日体大に拠点を移して3ヶ月。アジア王者の笹本ともスパーリングをこなす長谷川のグラウンド技術は確実に向上している。日体大関係者は「だいぶ良くなってきている。豊田(雅俊=55kg級日本代表)に対抗できるのは長谷川」と太鼓判を押す
(右写真=得意はスタンドの長谷川)

■社会人1冠目で“世界”への切符獲得!

 全日本社会人選手権は、社会人選手最高峰の大会だが、ナショナルチームの合宿や遠征などと重なるため、世界代表クラスの選手はあまり出場しない。今回のトーナメントも「豊田先輩と平井(進悟)先輩がいないので、絶対に勝たなければならない大会」という気持ちで臨み、順当勝ちした。出場理由は単純明解。日体大で修得した技術を試すことと、世界へ行くためだ。この大会で優勝すれば、11月に予定されている米国遠征メンバーに選出される。

 9月の世界選手権で日本代表メダルを獲れば北京五輪代表に内定するため、6月の全日本選抜選手権が事実上の代表決定戦という見方が強かった。優勝できなかった選手たちは肩を落とし、これを機に現役を退いた選手もいる。しかし、長谷川は「まだ若いし」と前を向く。

■目標は、あくまでも北京オリンピック

 この「若い」という意味は、28歳になる2012年ロンドン五輪を見据えてのことではない。「ロンドンは考えてませんよ。北京五輪狙ってます」と、他力本願にはなるものの、照準はあくまで北京五輪。「夏はポーランドに遠征に行こうと思っていますし、10月は国体、11月はアメリカ遠征で力をつけます」。ハードスケジュールだが、「それを求めて日体大にやってきたんです」と決意は固まっている。

 大学入学時は「レスリングだけじゃなく、勉強やキャンパスライフなどいろいろ経験したい」と、青学大に進学した理由を語っていたが、今では違う。「1日24時間の行動すべてがレスリングのため」と断言。マットに上がったときはもちろん、オフの時間は何を食べたら体にいいか、どのタイミングで休めばいいかなど気を使っているという。

 「最後に、再起について一言」と問うと、「再起? ボク、堕ちてないですよ(笑)。ボクはまだ若いし発展途上ですから」と強気な長谷川。“レスリング界の牛若丸”がこの夏、どれだけ成長するか楽しみだ。

(文・撮影=増渕由気子)


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