【特集】五輪への挑戦はまだ終わっていない…男子グレコ74kg級・菅太一【2007年6月22日】








 6月19日から東京・国立スポーツ科学センター(JISS)で行われている男子の全日本合宿には、世界選手権(9月17〜23日、アゼルバイジャン・バクー)の出場メンバーだけでなく、日本代表を逃した何人かのトップ選手も、秋以降に代表争いがもつれた場合にそなえて参加している。

 フリースタイル55kg級の田岡秀規、同60kg級の井上謙二(ともに自衛隊)など…。グレコローマン74s級の第一人者、菅太一(警視庁=
右写真の上)もその一人だ。失意のどん底にたたき落とされた明治乳業杯全日本選抜選手権から約10日。気持ちを切り替え、来るべき勝負の時にそなえる…。しかし、なえる気持ちにムチ打って合宿に参加した菅の第一声は「やる気は出ませんねえ」だった。

 それもそうだろう。昨年はこの階級で初の世界選手権出場を果たし、ドーハ・アジア大会のメンバーにも選ばれた。結果は出なかったが、海外のトップ選手にもまれる中で、自分なりの課題や闘い方を見つけていたに違いない。

 昨年1年間で数多くの経験を積み、今年は世界で勝負する本格的な1年になるはずだった。1月の天皇杯全日本選手権を制し、世界選手権の最も近くにいた全日本王者に待っていたのは、まさかの落とし穴だった。

 「アップの時から全然足が動かなくて、1回戦(子川亮介戦)で先制ポイントと取られて(悪い方に)舞い上がってしまった。本当なら立て直さなきゃいけないのに、そのまま引きずってしまった」

 何とか勝ち、続く2試合にも勝って決勝までコマを進めたものの、若い鶴巻宰(自衛隊)に敗北。調子をつかめぬまま、プレーオフでも敗れ、目の前にぶら下がっていた日本代表権をさらわれてしまった
(左写真:プレーオフで鶴巻に敗れた菅=赤)
 
 世界選手権で鶴巻がメダルを獲得すれば、菅の北京オリンピック出場は消えてしまう。もし、ライバルがメダルを取ったら? 残酷なシナリオだが、その場合のことは当然頭に入っていた。「フリースタイルをやります」−。他に、グレコローマンでクラスを上げたり下げたりする道もある。それについては「それもあるのかもしれない。まあ、様子も見ないといけないし、いろいろと考えてはいます…」と言う。

 自分の階級で五輪出場の道が断たれた場合、階級を上げたり、スタイルを変更して五輪へ挑戦した選手は少なくない。今回の代表メンバーに選ばれているフリースタイル55kg級の松永共広(ALSOK綜合警備保障)も、アテネ五輪の同級の代表が田南部力に決まったあとは、まだ代表が決まっていない60kg級へ挑み、五輪へのかすかな道に挑んだ。

 菅の頭にいろいろな選択肢が浮かぶのも当然である。グレコローマン74s級で再び勝負か、あるいは別の選択を迫られるのか…。

 いずれにしてもオリンピックへの挑戦はまだ終わっていない。「気持ちは、しばらくしたら回復すると思います」。失意のどん底からはい上がった時、菅の強烈な巻き返しが始まるに違いない。
(右写真:まだ100%の気持ちではないものの、合宿で実力養成に余念がない菅=赤)

(文=渋谷淳)


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