【特集】日本人の誇りを胸に…斎藤修審判委員長、芦田隆治審判員、藤本賢一審判員が参加【2007年5月16日】







 今回のアジア選手権(キルギス・ビシュケク)は、日本協会の審判委員長に就任したばかりの斎藤修審判員(千葉・佐倉南高教)の指揮のもと、芦田隆治審判員(大阪・大阪工芸高教)と藤本賢一審判員(奈良・二階堂高教)の計3人が参加した(左写真=左から芦田、藤本、斎藤の各審判員)

 芦田審判員
(右下写真)は特級制度のある時代(注:現在は1〜3級制度で、日本には9人の1級審判員がいる)の特級審判員で、2002年アジア大会(韓国)、2003年世界グレコローマン選手(フランス)、2005年世界選手権(ハンガリー)を筆頭に多くのビッグイベントをさばいてきた。規模が世界選手権よりも小さくとも、闘っている選手の真剣さに変わりはない。気が抜けるわけではなく、神経を使いっぱなしの6日間。しかし試合数が少ない分、「気持ち的にはいくらか楽」と言う。

 また、世界に比べるとアジアには英語をきちんと話せる審判員が少なく、ジャッジでもめた時などの意思疎通が世界選手権の時よりも厳しい時があるそうだ。「審判の間でもスムーズな人間関係が必要」との考えから、食事や会場への移動の時などはブロークンの言葉であってもできるだけ他国の審判員と会話し、いい人間関係の構築に努力している。

 「1人で参加した時は、今回以上に他国の審判と話をしますね」。もちろん日本から3人で参加することがダメというのではなく、斎藤審判委員長を中心にして、その日の微妙なレフェリングをしっかり話し合うことができ、審判員としての力をつけるためにいい面もある。

 キャリアのある審判員として、常に心がけているのが、周囲に惑わされない公正中立なレフェリング。日本の審判員は“外圧”に屈しないことで有名だが、他国にはあきらかに実力者の審判員に判定に合わせている審判員も少なくない。「周囲に左右されず、自分の思ったとおりのレフェリングをしたい」。その信念をもって今後の大会をさばいていきたいという。

 藤本審判員
(左写真)は2005年アジア・カデット選手権(茨城・大洗)2006年女子ワールドカップ(名古屋)などを裁いた経験はあるが、どちらかというと国内の大会を中心に審判活動をしてきた。この4月に全国高体連専門部の審判委員長に就任し、「世界のルールをきちんと知って、それを高校選手に伝える必要がある」として参加した。

 「外国での国際大会は、生活もすべてその国に合わせなければならないから、大変です」と、異国での6日間の審判生活を振り返った。

 シニアのアジア選手権を初めて裁いてみて感じたことは、外国の審判員のステータスの高さ。「誰もがオリンピックのレフェリーを目指して頑張っている。その国の中で権威があることが分かる」と話す。日本の審判員のステータスを高めたいがための言葉であろうが、「国内で信頼を勝ち取り、しっかりした地位を築くことも大事。高体連の審判委員長を引き受けた人間として、どちらの道を進めばいいか迷っている」とも言う。

 確かに、世界で運用されているルールを高校選手にきちんと伝えることも、高体連の審判委員長としての重要な役目。そのための第一歩が、世界のレスリングを実際に裁いてみることだ。しかし、言葉にすれば簡単だが、現実は47都道府県のすべての高校に正しいルールを伝えることは、とても難しいこと。

 情報伝達手段の多くなった現在では、20年以上も前のように新ルールが地方に数ヶ月も伝わらないことはなくなったが、どうしても細かな部分での解釈で伝わらないことが出てくる。審判長と言える人間がいない県もある。「審判クリニックにできるだけ多くの県から出てもらい、変えていきたい」。今夏の佐賀インターハイから本格的に活動する高体連審判委員長としての手腕が期待される。

 斎藤審判委員長
(右写真)は「審判員は、まず体力」と健康管理の重要性を強調する。現在の大会は3スタイル同時開催になり、世界選手権で7日、アジア選手権でも6日と長い日程になっている。体力が続かなければ集中力も続かなくなるわけで、「外国の審判員は平均して体力がある。今回は場所がなくてできなかったが、試合の合間に審判員によるマラソン大会やサッカー大会などが行われることもあり、どの国の審判員も元気よく参加している」と説明する。「深酒を控え、何よりも健康に留意して日本の審判の力を世界に示してほしい」と望んだ。

(取材・文=樋口郁夫)


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