【特集】「目標は五輪2連覇」−。ずばり言い切る20歳の新星、フリー66kg級・米満達弘2007年2月27日】







 学生の躍進が目覚しい最近の男子フリースタイル。2004年に大学3年生で60kg級全日本王者になった小島豪臣(当時日体大=現周南システム産業)もその1人だったが、それから2年後の今、66kg級にアップして王座を奪取した小島をして、もう“追われる立場”に追い込まれているのが現状だ。

 追い込んでいるのは、今年度のJOC杯ジュニア王者、20歳の米満達弘(よねみつ・たつひろ=拓大2年、
左写真)。昨年6月の全日本選抜選手権、そして今回の全日本選手権と2大会連続でアテネ五輪代表の池松和彦(K−POWERS)を破る実力を発揮し、ともに2位に食いついた(決勝の相手はともに小島)。10月の国体では全日本大学選手権V4を達成した佐藤吏(早大=ALSOK綜合警備保障予定)を破っており、その成長ぶりは明白だ。

 これからの目標を聞かれると、きっぱりと「オリンピックの金メダル」と答える度胸のよさがある。20歳ならば、来年の北京五輪の出場を目指しつつ、2012年ロンドン五輪での金メダルが目標と思われるが、そうではなく、「北京オリンピックの金メダルが目標です」ときっぱり。「まだ時間はあります。北京で取って、ロンドン五輪で連覇したい」。20歳の選手で、ここまできっぱりと言い切る選手も珍しいが、そう言えるだけの気合のこもった練習をしているのは、どのコーチも証言することだ。

■「強い選手相手の方がやる気が出ます」と、池松和彦に真っ向勝負

 今回の全日本2位も「優勝を狙っていました。届かなかったので悔しいです」。順調に伸びている、などという気持ちはまったくない。小島のような左構えの選手は苦手なタイプとのことだが、同じ左構えの佐藤吏には勝っているのだから、これを負けた言い訳にするつもりはない。「実力がないから負けました。6月の選抜は絶対に勝って、世界選手権のキップを取りたいです」と常に前を向き、上を目指している(右写真=全日本選手権決勝で、小島をあわやフォールに追い込んだ米満)

 五輪選手の池松と闘った時も、ひるむ気持ちは「まったくありませんでした。強い選手の方がやる気が出てきます」とさえ言い切る。一方で、2大会連続2位という結果に、「闘うことのなかった選手もいますから…(本当の2位ではない)」と自戒することも忘れない。強気の一方で、おごりや油断の入る余地を封印する慎重さ。双方の気持ちがうまくかみ合っていけば、今後も伸びていく可能性は十分だろう。

 山梨・韮崎工高3年生の時は、全国高校選抜大会3回戦敗退に始まり、インターハイで2位。続く全国高校生グレコローマン選手権で初の全国王者となり、国体グレコローマンでも優勝した(すべて60kg級)。山梨県のレスリングはまだ歴史が浅く、全国王者が頻繁に生まれるわけではない。その中で個人優勝を果たすことができたのは「強くなりたい、という気持ちだったと思います。高校時代はそのことしか考えていませんでした」と振り返る。

 部内や県内での練習だけで足りないと思えば、他県での合宿の時に強豪選手に積極的にスパーリングを挑んだ。そんな強い心を持った選手が、全国から優秀な選手が集まる拓大に入学すれば、強くなるのは当然だ。

 「高校時代と違い、周りは強い選手ばかり。また、いろんなタイプがいました」。同じ階級に藤本浩平(2005年世界ジュニア選手権3位、同年全日本2位)という強い選手がいたことも、辛いことではあったが、実力アップという点では幸いした。この頃から、おぼろげながらしか考えることができなかった日本一、そして五輪金メダルという夢が現実のものとして考えられるようになったという。

■初の全日本合宿にも、物おじせずに参加

 昨年7月には、初めて全日本チームの合宿に召集され、8月にはチームの一員としてロシア遠征にも参加した。拓大の西口茂樹コーチは、自分の現役時代を振り返り、「初めて全日本合宿に参加する時は、とても緊張した。でも、米満は浮き浮きして合宿に向かった」と、その強心臓ぶりに舌を巻く(本人は「緊張して前夜は眠れなかった」と話しているが…)。

 そして、きょう2月27日から2度目の全日本チーム遠征に出発する。「日本ではできない経験を積んできたい。世界で勝てるレスリングを学んできたい」と気合十分。昨年、2年生でこの全日本遠征に参加した高塚紀行(日大)が、アテネ五輪5位の選手を破るなどの経験を積み、見事に世界3位に輝いているように、若い選手にとってこの遠征は実力アップの絶好の機会。呉越同舟する小島を一気に追い抜くことができるか
(左写真=全日本合宿で小島に挑む米満)。もちろん、佐藤吏や藤本浩平がこのまま黙っていてはならない。

 フリースタイル60kg級で世界のメダリストが生まれたのは、高塚紀行や湯元健一(日体大)ら若手の激しい争いがあったからだ。いま、66kg級で若手の壮絶な闘いがスタートした。この厳しい闘いを勝ち抜けば、必ずや世界のメダルが見えてくることだろう。


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