【優勝選手特集】男子フリースタイル84kg級・鈴木豊2007年1月27日】







 全日本王者経験を持つ松本真也(日大)と磯川孝生(拓大)のライバル対決や、2005年世界選手権代表の山本悟(岡山・烏城高教)に注目が集まった男子フリースタイル84kg級。しかし今回、優勝候補にも名前が挙がらなかった鈴木の優勝により、「3強」の階級から「4強」の階級へと大きく変化した。

 27歳での初優勝だった。進路について悩んだ時期もあった。2004年に階級を一つ上げてからも、若手に阻まれ、なかなか決勝までたどりつけずにいた。「あきらめずにやってきてよかった」。長く苦しい時期を乗り越えたからこそ、この一言に重みがあった。

 この優勝には前兆があった。昨年の国民体育大会で山本を破り優勝していたのだ。それでも、「若い2人(松本、磯川)は勢いがあるので、負けないようにと思ってやってきた」と必死だった。結果、松本と磯川の2人を直接倒して「完全優勝」を手に入れた。

 決勝の磯川戦は、互いに攻め合い、取られたらすぐに取り返す目が離せない展開となった。第1ピリオドではニアフォールに持ち込まれる場面もあったが、切り抜けてフォール負けは免れた。第2ピリオドで巻き返し、第3ピリオドは終盤にネルソンからフォールを決めると、両手を突き上げ、喜びを体全体で表現した。

 試合に集中でき、「最後まで気持ちが途切れなかった」という。今までの辛い時期やレスリングへの思いが、プレーに表れているようだった。

 今年の目標はもちろん、「世界選手権に出ること」。今後も「松本、磯川、山本は注意する相手」であることに変わりはない。まずは次の全日本選抜選手権で世界選手権の切符を勝ち取り、自らの手で北京五輪の切符を日本にもたらしたい。

 27歳にしてつかんだ全日本王者の称号。これは鈴木にとってゴールではなく、新たな挑戦のスタートだ。

(文=神谷衣香、撮影=矢吹建夫)


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