【全日本選手権優勝選手】男子フリースタイル60kg級・前田翔吾(日体大)【2008年12月24日】



 北京オリンピック銅メダリストの湯元健一(日体大助手)がエントリーしながら腰痛で棄権した男子フリースタイル60kg級。有力選手が次々に姿を消す波乱のトーナメントを制したのは、2回戦で優勝候補の高塚紀行(日大コーチ)を下して波に乗った、大学王者の前田翔吾(日体大)だった。

 前田にとって最初のヤマは2回戦の高塚戦だった。「相手の方が強いという気持ちもあったけど、練習量だったら負けてない。絶対に勝とうと思った」。強い気持ちでマットに上がった前田は、積極的なレスリングで2006年世界選手権銅メダリストを追い込み、勝負の第3ピリオドは完全にスタミナで上回って勝利。試合前のアップで右太ももを痛めたという高塚は「またやり直します…」とうなだれるしかなかった。

 逆のブロックでは、6月の全日本選抜選手権で湯元を下して優勝した小田裕之(国士舘大)が、2回戦で菊地憲(警視庁大井警察署)に敗退。前田は、その菊地を準決勝で下した大館信也(自衛隊)を決勝で下し、混戦の60s級の頂点へ立った。全日本大学選手権に続くタイトルを獲得した大学3年生は「力はついてきているとは思ったけど、優勝できるとは思っていないなかった。夢を見ているようです」と初々しいコメントを口にした。

 愛知県出身の前田は星城高でレスリングを学び、合間をぬって中京女大に通って腕を磨いたというキャリアを持つ。「中女には中学2年から高校3年まで5年間通いました。吉田(沙保里)選手とは何度もスパーリングして、やられてばかりだった」。さすがに現在は男女のパワーの差で上回れるというが、中高時代に吉田のテクニックを学んだ経験は大学でも大いに役立った。

 これで来年の明治乳業杯全日本選抜選手権に勝利すれば、世界選手権への出場が決まる。「まだまだパワー不足だけど、必ず世界で闘いたいと思っています」。吉田沙保里の遺伝子を受け継ぐ60s級のホープが、世界にはばたくスタートラインに立った。

(取材・文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫)


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