【全日本選手権優勝選手】男子フリースタイル96kg級・松本慎吾(一宮運輸)【2008年12月23日】



 昨年の男子グレコローマン84kg級で全日本選手権9連覇を達成し、日本代表チームのコーチとなる予定の松本慎吾(一宮運輸)がフリースタイル96kg級に出場。フリースタイルでの試合は実に10年ぶりというハンディを背負いながら見事に優勝した。

 コーチとして指導をしていくうえで、「フリースタイルの経験も必要」と感じて出場を決意した。「タックルの仕方もグラウンドへの移行の仕方も分からない」という手探り状態だったが、根本的な体力と世界で培った精神力は別格だった。事実上の決勝となったのは2回戦の磯川孝生(山口県協会)戦。6月の明治乳業杯全日本選抜選手権を制している磯川に対し、松本は足を取られてアンクルホールドを再三決められるなど、第1ピリオドこそ経験不足を露呈した。

 しかし第2ピリオド途中から圧倒的な体力差を披露。3点の投げ技2度でこのピリオドを逆転勝ちすると、最後はスタミナの切れた磯川を一気に突き放した(左写真はいずれも磯川戦)。決勝戦では大学の後輩、下屋敷圭貴(日体大)をわずか26秒でフォールした。

 二つのスタイルで全日本タイトルを獲得しながら、松本が喜びの表情を見せたのは束の間だった。後輩たちについて話が及ぶと、とたんにその口調は厳しさを増した。まずは決勝で対戦した下屋敷について、「もっと積極的に攻めてきてほしかった」と指摘。この階級の第一人者である磯川については「後半はスタミナがなかったし、途中で気持ちが折れていた。そこを克服しないと世界では通用しないと思う」と鋭く言い放った。

 あえて厳しい言葉を口にするのは、後輩たちの将来を思えばこそだ。松本は「いまの選手は、全体的に体力がないと思う。笹本も加藤もあれだけ体力があったのに、オリンピックではメダルが取れなかった。体力がないのでは、オリンピックに出場すらできない。自分が今回の大会にフリースタイルで出場したのは、そういうところを後輩に伝えたかったという理由もある」と明かす。

 今大会ではっきり引退というわけではなさそうだが、世界選手権出場のかかる来年6月の全日本選抜選手権には「気持ち次第だけど、いまのところ出場するつもりはない」と言う。今後は指導者という基本路線を維持しながら、後輩たちを厳しく鍛えていきそうだ。

(取材・文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫)


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