【特集】憧れの先輩の影響でグレコに転身し、学生二冠王達成!…尾曲伸乃祐(青学大)【2008年10月25日】



 全日本大学グレコローマン選手権84s級の決勝戦は、8月の全日本学生選手権(インカレ)と同じ、尾曲伸乃祐(青山学院大)と奥村一生(拓大)の顔合わせとなり、尾曲が勝って学生二冠王に輝いた(右写真)

 インカレは大接戦で、尾曲が2−1で勝利。今大会の決勝は、5点技が飛び出すほどの点取り合戦となった全日本学生選手権とは打って変わって、1点を争う展開となった。尾曲は「インカレの時はスタンドでガンガン押されたので、今回はスタンドから(勝負に)いくことが作戦でした」と振り返り、スタンド戦から積極的に仕掛ける。しかし、練習ではいつも負けているという奥村相手に1点が取れず、第1ピリオドのスタンド戦が終了。グラウンドの優先権を取られて第1ピリオドを落とし、後がなくなった。

 第2ピリオドはさらにスタンドで勝負をかけた。胴タックルを2度仕掛けるが、ディフェンスのいい奥村には通用しない。結局ノーポイントのままグラウンドになり、今度は尾曲に優先権が与えられた。クラッチがいい位置で決まった尾曲はがぶり返しで2点を獲得。いい形でディフェンスに回った。

 防御の笛が吹かれた瞬間、アクシデントが発生した。奥村がリフト時に右肩を痛めてドクターストップとなってしまったのだ。大学頂点を決める大事な試合は、予想外の形で幕を下ろした。

■青学大の先輩、長谷川恒平(55kg級)のレスリングに影響された

 ともあれ、青山学院大では2006年の長谷川恒平(55kg級)以来の学生2大会制覇を達成した尾曲。2冠についてふれると「ラッキーだっただけ」と謙そんする。兵庫・育英時代は表彰台の経験はあるが一度も優勝はなし。大学に入っても、2年生まで優勝がなかった。

 3年生になって頭角を現したのは、グレコローマンに絞っての特訓が効いたからだ。高校時代のインターハイ2位などの実績はすべてフリースタイルでのもの。グレコローマンに没頭したのは、青学入学時に出会った一人の先輩の影響が大きかった。

 それは55s級全日本チャンピオンの長谷川恒平(前述)だ。84s級の尾曲と二周りも体格が小さいにもかかわらず、練習ではポイントを奪われた。尾曲は悟った。「長谷川先輩は組み手と崩しがすごくうまかった。技に関しては階級は関係なくかかることが分かった。レスリングはパワーじゃないんだ」。

■松本慎吾の抜ける激戦階級に挑戦!

 すっかりグレコローマンの魅力に取り付かれた尾曲は、その後グレコローマン一本で練習を積んだ。授業の関係で部の練習に出られない時は、渋谷から片道2時間をかけて八王子にある拓大に出げいこに出かけた。学生レスリング界は大学の垣根を越えて指導する監督・コーチが多い。熱心な尾曲に対し、拓大の西口茂樹コーチも温かく歓迎。適切なアドバイスも西口コーチからもらった。その一つが「立つこと」だ。

 グラウンドのディフェンスは、マットにしっかり這うのが一般的だが、尾曲は「立つこと」にこだわった。大会2週間前、首を痛めて練習の幅に制限がかかったが、グラウンドの攻めとディフェンスの立ちの練習は妥協しなかった。その成果が実って、今大会では5回もグランドからの「立つ」ことに成功。決勝戦こそ相手の棄権での勝利となったが、それまでの勝ちっぷりは十分に評価できる内容だった(左写真=相手の負傷棄権で手が上がった尾曲)

 学生2冠を達成し、学生界のエースに成長した尾曲。同級はアテネ・北京五輪代表の松本慎吾選手が長く看板を張っていた階級。松本は選手生活にピリオドを打つことを決めており、今後は激戦階級になるのは必至だ。「全日本選手権で勝負できるように、自信になる練習を積んでいきたい」。12月の晴れ舞台で、尾曲がさらなる進化を見せつける。

(文・撮影=増渕由気子)


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