【特集】北京では完全燃焼! しかし「レスリングが好きだから」現役は続行…72kg級・浜口京子(ジャパンビバレッジ)【2008年8月18日】






 準決勝でノーマークとも言えた中国選手に不覚の敗北。それはアテネ五輪と同じ状況だった。緊張の糸が切れそうになる状況と必死に闘い、気力を振り絞って3位決定戦を闘ったことも同じ。そして同じように「金と同じ」と書く「銅」メダルを手にした(右写真=表彰台で手を振る浜口)

 アリ・バーナード(米国)との3位決定戦を終えた浜口京子(ジャパンビバレッジ)は「本当によかった。完全燃焼です…、北京は」と安堵の表情を浮かべた。

■「15年間のレスリング生活で最高の試合」…3位決定戦

 中国の代表がアテネ五輪金メダリストの王旭ではなく、2005年世界選手権で浜口が圧勝した若い王嬌だと分かったのは7月下旬。日本代表チームの栄和人監督は「王旭より荒削りだけど、馬力はある」と警戒した。

 2005年アジア選手権(中国・武漢)では村島文子相手に、女子重量級では考えられなかったジャーマンスープレックスさえ見せた脅威のパワーの持ち主。栄監督の警戒どおり、20歳の成長株に足元をすくわれることになった
(左写真=王嬌に敗れた浜口を後方から両親が見守っていた)

 「強かった。負けは負けなので」。銅メダルに輝き、しかも「15年間のレスリング人生の中で最高の試合」という3位決定戦だっただけに、浜口の口から王嬌戦を詳しく振り返ることはなかった。もちろん“幻のフォール”への不満も。それらをすべて超越した満足感がからだ中に充満しているといった試合後だった。

■同じ銅メダルだけど、内容はアテネ五輪より今回の方が上

 「アテネと同じ銅メダルだけど、中身の濃い銅メダルです」。それはこの4年間の闘いが凝縮されているからだろう。反則の頭突き、国際レスリング連盟(FILA)も認めた誤審…。いろいろあった4年間。それ以上に、北京五輪行きキップを手にすることにチームメートよりも半年も遅れてしまったことが、最後の大きな難関だった。

 「北京オリンピックに出られないんじゃないかな、というプレッシャーとの闘いだった。家族にもプレッシャーをかけたと思う」。多くの人に心配をかけた末のオリンピックのマット。準決勝で負けたからといって、気力を萎えさせるわけにはいかなかった。

 午前の部が終わって選手村に帰ると、コーチから手渡された3位決定戦で闘う可能性のあるバーナードとジェニー・フランソン(スウェーデン)のビデオをずっと見ていたという。「強そうだ」という思いと、「いや、私の方が強い」という思いが何度も交錯。

 その迷いを断ち切ってくれたのは、ウォーミングアップ場で日本協会の福田富昭会長がかけてくれた「あと4分だ。死にもの狂いで、ぶっ倒れてもいいから攻めろ」という激励。試合でも、守ろうという気持ちが芽生えたごとに、その言葉を思い出したという
(右写真=3位決定戦に勝ち銅メダルを死守)

■浅草応援団の「ロンドン・コール」を否定せず! 闘いはまだ続く

 試合を、そして表彰式を終えた浜口を待っていたのは、父・アニマル浜口氏ら浅草応援団の「ロンドン・コール」だ。今年30歳で、選手生活の引退すらほのめかしていた浜口に、「もっと続けろ」との熱いリクエスト。浜口は、そのコールの感想を聞かれると、まず「面白いですね」と笑った。

 そして「レスリングが好きなんです。レスリングに出会えてよかった」と続けた。「現役続行宣言?」との問いには、「北京に来る前は考えていなかったんですけど、今はまだレスリングをやりたいです。やらせてください。(10月に東京で)世界選手権もありますし」と話した。

 「完全燃焼」と言ったのは、「北京オリンピックでは」という意味であり、闘争心はまだ燃え尽きてはいなかった。家族は「ロンドン五輪も行けるよ」と言ってくれるそうだが、自身はすぐに2012年ロンドン五輪を目指すということではなく、「出られる大会をひとつひとつ出て」と強調した
(左写真=観客席からまな娘に声援をおくるアニマル浜口氏)

 かつて浜口のライバルだったクリスティン・ノードハーゲン(カナダ=世界を6度制覇)がアテネ五輪に出場したのが33歳の時。今回のオリンピックにはあと一歩で出られなかったものの、グドルン・ホイエ(37歳=ノルウェー)、ニコラ・ハートマン(33歳=オーストリア)、アンナ・ゴミス(34歳=フランス)ら世界を何度も制した選手が元気に闘っているのだから、気持ちがあるのなら引退しなければならない理由はどこにもない。

 技の種類が増え、戦術の幅が広がった浜口にとって、今が一番レスリングが面白い時期なのではないか。目の前の大会をひとつひとつこなしていく中で、すぐにロンドン五輪が見えてくることだろう。もしかしたら、東京の世界選手権の時にも…。レスリング会場に「気合だ!」の叫び声がこだまするシーンは、まだまだ続きそうだ。

(文・撮影=樋口郁夫)



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