【特集】必要なデフェンス力と国内でのし烈な争い…富山英明強化委員長【2008年8月15日】






 日本から3選手が出場していた男子グレコローマンが14日終了した。グレコローマンとしての勝利は初日に登場した60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障)の初戦のみ。84kg級の松本慎吾(一宮運輸)、96kg級の加藤賢三(自衛隊)はともに初戦敗退で、グレコローマン全体で1勝3敗という惨敗に、日本協会の富山英明強化委員長も肩を落とした。
 
 オリンピックでは何がおこるかわからないとよく言われるが、レスリングも人ごとではない。連日、世界選手権のチャンピオンやアテネ五輪金メダリストが敗れていく。スタンド・レスリングが1分しかないことや、0−0の場合に行うグラウンドの攻防がボールのピックアップにより決まってしまうなど現行のルールにもその理由となる部分があるが、裏を返せば誰もが金メダルを狙うチャンスがあるということ。だからこそ、嘉戸洋コーチは「我々にも(チャンスが)あったはず」と語る。

■4試合で失点0の60kg級チャンピオン

 勝負の分かれ目はどこにあるのか。それはシンプルながらも「自分の得意技をかけることができるか、そして相手に得意技をかけさせない」ことができるかどうかにあるという。つまりはディフェンス力の差が勝負を決めるのだ。

 実際、初日の60kg級で優勝したアスラムベク・アルビエフ(ロシア)は、初戦から決勝までの4試合で総失点は「0」。相手の攻撃を守る力のみならず、グラウンドの攻撃でも必ずポイントを取っていたがゆえの総失点「0」だ
(左写真の赤)。第2日の74kg級決勝では、グルジアのマヌシャル・クビルケビアが相手選手が開催国の選手というアウェーの中でも強いディフェンスで得点を許さず、自分の得意技をかけ圧勝した(右写真)

 嘉戸コーチは、最終日の試合で松本が9点、加藤が6点(グラウンドの30秒の攻撃でポイントを取れなかったことによる1失点を除く)を取られたことを指摘し、「日本はディフェンスが大きな課題。あんなにとられたら勝ち目はなくなる」と評した。

■若いうちから世界のレベルを感じてほしい

 ディフェンス力以上に富山委員長が憂えたのは、日本の中で3選手と競る相手がほとんどいないグレコローマンの国内事情だ。笹本、松本ともシドニー五輪後の全日本2大会(全日本選手権、全日本選抜選手権)を完全に独占。加藤はライバルとよべる選手がいた時期もあったが、ここ数年は右に出るものはいなかった。

 数多くの有力選手がいる状態でしのぎを削り、日本代表を選出できるようなグレコローマン界になるようレベルアップを求めた。最後に「ばくぜんと強さを求めるのではなく、世界で勝てるだけの実力をしっかりと肌で感じるしかない」と、早い年代の頃から世界のレベルを感じる必要性があると加えた。

(文=藤田絢子、撮影=樋口郁夫)



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