【特集】地元開催に花を添えた66kg級・赤澤岳、花咲徳栄から初の全国王者へ【2008年8月5日】






 「強いチームに入って強くなるより、無名高に入って強い学校を次々と倒したかった」。創部4年目の花咲徳栄(埼玉)から初のインターハイ王者となった66s級の赤澤岳は、3年前の入学当初の気持ちを振り返った(右写真=優勝して高坂監督に抱きつく赤澤)

 無名チームに入学した当時は「霞ヶ浦」などのネームバリューに名前負けする自分がいた。「でも、試合で組んでみたら自分の方が強いって自信をつけられました」と、次第に強豪チームの恐怖心は消え去り、自分が一番強いと信念を持てるようになった。これは赤澤だけでなく、花咲徳栄全員の気持ちだろう。

 花咲徳栄はここ数年、高校レスリング界の台風の目。20年以上県大会を連覇していた埼玉栄から「埼玉王者」の冠を奪い取り、その勢いで今年6月には強豪・霞ヶ浦をも「関東王者」から引きずりおろした。地元・埼玉開催のインターハイ制覇に向けて準備は万端。しかし、仕上げのインターハイで霞ヶ浦に関東大会のリベンジをされてしまい悔し涙を流した。

 「団体戦直後は落ち込んだけど、チームでミーティングをしました。個人戦でも団体戦のように盛り上げていこうと」。地元開催のアドバンテージで、埼玉県勢は各階級2名がエントリーしたが、結局、個人戦の決勝戦に残ったのはエースの赤澤だけだった。花咲徳栄はもちろん、同じ地元の埼玉栄の関係者も、いっせいに赤澤だけに大きな声援を送る−−。ものすごいプレッシャーが赤澤にかけられた。

■すごいプレッシャーにも打ち勝つ“目立ちたがり”精神!

 赤澤がノミの心臓だったのなら、この時点で負けていただろう。だが、「プレッシャーかけられるのが大好き。それを力にしちゃいます」と目立ちたがりでヒーロー気どりが大好きな赤澤にとって、“応援”が一番の力になった。ひときわ大きく送られる声援の中、準々決勝まで危なげなく勝ち進んでいった。優勝へのカウントダウンとなった準決勝と決勝戦。2位や3位ばかりに終わっていた今までの個人戦の記憶がよぎった。

 「それも、いつも残り30秒とかの逆転負けだった」とラストのさばきが課題だった。「残り数秒でも気を抜かず頭の位置を気にする練習をしてきた」とリードを奪っても練習どおりの動きができた。

 「テクニシャン」と言い張る赤澤だが、周囲は苦笑しながら「パワー&スタミナ派」と口をそろえる。赤澤の基本スタイルは腕取りやくずし。そして6分間動き続けるフットワークで相手を自分のペースに巻き込んでいくことだ。基本はパワーレスリングなのだが、今回は細かなところでの技術が光った。ここ一番の勝負どころで、出した技は難易度が高いアンクルホールド
(左写真=決勝戦でも爆発)。「全日本選手権を見に行って、うまい選手の技を自分で研究したり、直接全日本クラス級の選手に教わった」と、ほんの少しのヒントだけで、自分の持ち技にしてしまった。

 これはセンスがなければできないこと。パワーもスタミナもそしてスキルもあったら鬼に金棒。「将来五輪選考に絡む選手」と高坂拓也監督はキッパリと言い切った。

 インターハイ王者になったことで12月の天皇杯全日本選手権への出場権を獲得した。昨年の天皇杯は“タックル王子”こと高谷惣亮(網野→拓大)が高校3年生ながら全日本2位に入賞して大旋風を巻き起こしたが、赤澤はどんなデビューを見せてくれるだろうか? パワー、スタミナ、スキルと3拍子そろった元気いっぱいの赤澤が全日本のマットで鮮烈でビューを果たす。

(文・撮影=増渕由気子)


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