【特集】北京オリンピックへかける(3)…男子グレコローマン96kg級・加藤賢三(自衛隊)【2008年7月30日】






 男子ナショナルチームを経験した選手に長野・菅平での思い出を聞くと、顔をしかめる選手が多い。日本トップレベルから世界のトップレベルへと進化するためにある高地・菅平合宿。全日本V5しているグレコローマン96kg級の加藤賢三(自衛隊=左写真)も例外ではないが、「最後の菅平だから」と少しうれしそうに笑みを見せた。

 「調子は普通です。いつもどおりです」と平常心を強調。けがなどのアクシデントもなく調子は順調のようだ。昨年の世界5位の原動力となった必殺の首投げは、タイミングが合えばいつでも3点技につなげられるほど完成度を高めている。研究されないようにと、世界選手権以降は封印したが、北京五輪では「いつもどおり」の首投げを解禁する予定だ。

 加藤はその首投げの3点技を有利に生かすためにも、グラウンドでのディフェンスに練習の重点を置いている。「課題もクリアできている。(グラウンドのディフェンスから)立てるようになってきた」と終始得意のスタンド勝負に持ち込むつもりだ。

 全日本合宿中の主な練習相手の一人、84kg級五輪代表の松本慎吾は「外国人のようなズルさがある。グランドのディフェンスでも、相手に向かっている守りだ」と話しており、その進化には目を見張るものがあるようだ
(右写真=昨年の世界選手権でさえた首投げ)

■取材時の盛り上がりは日本一!

 五輪出場を決めるまでは、マスコミからほとんど見向きもされなかった。めでたく五輪出場を決めたあとは、“日の当たらない重量級”から一気にブレーク。レスリングの話題は平凡といえるが、取材の都度、旬な話題を取り入れて報道陣のハートをがっちりとつかむ。牛肉偽装問題が社会を騒がせば、牛肉に関することなど。チーム内でもいつのまにか“ムードメーカー”になっていた。

 元々全日本選手権の入場曲にプロレスラーの故・橋本真也さんテーマを使うほどのプロレスファン。「引退したらプロレスに転向したい」との発言もあった。プロレスラーというエンターテインナーのポテンシャルがあるのか、加藤の囲み取材は盛り上がる。プロレスラーはでっかい舞台であるほど燃え上がる。加藤も、五輪という“どでかいリング”に上がることで、さらなる飛躍が期待できそうだ。

■加藤がオリンピックで闘う理由

 五輪出場権を決めた昨年12月の天皇杯全日本選手権決勝の試合後、マット上で対戦相手の斎川哲克(ヤクルト栃木=当時日体大)に「次はお前の番だ」と激を飛ばした。後輩の成長のことは、いつも考えている。五輪の目標は、自らの成績もさることながら、「ロンドン五輪に向けて、後輩たちががんばろうと思える試合内容にしたい」こと。重量級の第一人者として、そう思わざるを得ないのだろう。

 軽量級の学生選手には「将来五輪で金メダルを取りたい」と声高らかに話す選手が多い反面、重量級の若手選手たちから「五輪で金メダル」というフレーズはあまり聞こえてこない。日本の重量級は世界で難しいという固定概念がまん延しているからだ。加藤の踏ん張りに重量級の未来が託されている
(左写真=日本重量級選手の期待を背負って北京へ向かう加藤)

 7月25日の全国少年少女選手権(東京・代々木第1体育館)の開会式前に行われた五輪代表チームの壮行会で、富山英明強化委員長は男子の目標を「フリーで金1つ、グレコで金1つ」と掲げた。しかし、グレコローマンで金メダル最右翼の60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障)が、報道陣からの「グレコで金メダル1つが目標ですが、それについて」という質問に対し、「金3つ取ります!」と間髪入れずに答えた。

 その瞬間、かすかに「エッ−?」という表情を浮かべた加藤だが、やはり後輩たちに希望を与えるメダルの色は“金色”が一番! 加藤が北京五輪で日本重量級の歴史を変える−。

(文=増渕由気子)


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