【特集】一族の期待を瀬に初優勝…男子73k級・今村聖【2008年6月16日】







 群馬・太田倶楽部所属の選手の試合になると、いつもどおりセコンドに熱血監督・今村直樹氏の声が響き渡る。「攻めろ! 行け行け!」

 その声が、男子73s級決勝戦では一層大きくなった。今村氏の愛息・今村聖(群馬・城西)がマットに立ったからだ。かつて、「太田倶楽部の今村4兄弟」と言えば、レスリング界でちょっとした有名兄弟だった。次男の直樹氏は24年前の第10回大会63s級準優勝を果たしている。また、全日本トップレベルの選手を擁する実業団であるクリナップの指揮を執るのは、今村監督の実兄で大学王者に輝いたことのある浩之氏。レスリング一家の遺伝子を引き継ぐ聖は、今村一族の期待の星だ。

 しかし、昨年の大会ではまさかの初戦敗退に終わり、周囲の期待を裏切ってしまった。どん底に突き落とされた今村だったが、「今年は3年生で最後の全中だし」と一念発起し、週3〜4回だった練習を毎日練習するように切り替え、親子の二人三脚で今日までやってきた。

 それで父・直樹氏は不安を隠せなかった。「準決勝、決勝戦の相手は強い相手。正直言って、勝てるとは…」と吐露したが、才能のある今村が練習を積めば、鬼に金棒! 決勝戦第1ピリオドでは、大舞台に立った緊張で失点がかさみ、6−9で落としてしまうものの、6点も取ったという自信を第2ピリオドで見せテクニカルフォール。これですっかり相手の心を折った今村は、続く第3ピリオドはわずか26秒でテクニカルフォールを収め、初優勝を勝ち取った。

 「練習したかいがありました」とひょうひょうと話す今村とは対照的に、直樹氏は「試合で泣いたのは初めて。なんせ、せがれだから…」と目を真っ赤にして喜んだ。その表情は熱血監督からすっかり“親父の顔”に。「これをステップに3年後にはインターハイ制覇、そして8年後にはオリンピックで金メダルを取ってほしい」と、気が早いコメントを連発したが、今村本人もまんざらではない様子
(左写真=今村直樹氏とメダルを首からかける聖)

 父の夢を、子の今村は実現できるか!?

(文=増渕由紀子、撮影=矢吹建夫)



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