【特集】トップ競技者が学ぶ時代 −池松和彦・スポーツ心理を学ぶ−【2008年1月14日】

日本協会強化委員会委員・スポーツ医科学委員会委員 久木留 毅





 今年2月2日、スポーツ界待望のナショナル・トレーニング・センター(NTC=
左写真)が東京・北区にオープンします(室内競技用のNTC)。NTCには、柔道、卓球、ハンドボール、バスケット、バレー、ウエイトリフティング、ボクシング、そしてレスリングの専用競技場があります。レスリング場はマット6面が敷かれる世界でも類のない施設です。さらに、ビデオカメラが各マットを天井・壁の四方から囲み、練習中に撮影した映像を即時にフィードバックできるという最新の設備を整えた道場です。

 NTCの隣には、トップ競技者を医・科学・情報の面からサポートする国立スポーツ科学センター(JISS)が2001年にオープンしています。NTC、JISSという最新の設備と有能な医学・科学・情報スタッフがそろい、コーチはこれらのスタッフとディスカッションをする機会が増えます。

 その時、コーチは指導現場で行っている事象に対して的確な言葉で伝える能力が必要になると同時に、医学・科学用語も理解することも求められます。つまりコーチは、技術だけでなく医学・科学・情報面からも学ぶことを求められる時代になってきています。

 アテネ・オリンピックにおいて男子フリースタイル66kg級で5位に入賞し、北京オリンピックを目指す池松和彦選手
(下写真)は、昨年、日本体育大学の大学院を修了しました。自らの経験を科学的に解明しようと試み、修士論文はバーンアウトテーマを研究し、『レスリング選手におけるバーンアウトとソーシャルサポートの関係』を書き上げました(クリック=pdfファイル)。

 池松選手にとって大学院で学んだ時間は、大きな財産になったはずです。おそらく、北京オリンピックが終われば池松選手も指導者の道を歩むと思います。その時、大学院で学んだ知識と人脈が彼の財産となると考えられます。

 池松選手の他にもグレコローマンスタイル84kg級の松本慎吾選手も昨年、日本体育大学大学院を修了しました。この様に、現役のトップ競技者が大学院に行く時代になってきているのです。もちろん、大学院の他にも学ぶ方法は多々あります。また、レスリングだけでなく、他の競技団体でも多くの競技者が大学院を始めとして様々な方法で学んでいます。大切なことは、学び続けるということです。

 多くの若いレスラーは池松選手や松本選手を見習い、レスリングと同様に医学・科学・情報について学ぶ努力をしてほしいと思います。これからは、日本レスリング協会の良き伝統を引き継ぐと共に、医学・科学・情報の知識を学んだ知的レスラーを増やすことも必要な時代です。

 NTCとJISSという最新の設備とスタッフを100%使うためには、第二、第三の池松選手、松本選手を育成していくことが必要な時代なのです。



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