【全日本選手権優勝選手】男子フリースタイル60kg級・小田裕之(国士館大)【2009年12月22日】

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)



 男子フリースタイル60s級は、北京五輪3位の湯元健一(ALSOK綜合警備保障)と2006年世界3位の高塚紀行(日大コーチ)を準決勝、決勝で倒した小田裕之(国士舘大)が初優勝を遂げた。

 大学3年にもかかわらず、今年は学生界でもタイトルを総なめ。二冠王者に輝き、年間学生MVPも獲得。その勢いで全日本選手権の頂点も極めた。国士舘大から現役全日本チャンピオンになったのは、2004年の鶴巻宰(現自衛隊)以来。滝山将剛・国士舘大部長は、久々の学生の日本一誕生に目じりを下げながらも、「小田の実力はこんなもんじゃないですから」と伸びしろがたっぷりあることを強調した。

 小田は三重・一志ジュニアクラブの出身で、吉田沙保里(ALSOK綜合警備保障)の後輩になる。キッズ時代から数々のタイトルを獲得、キッズのエリートの勲章である全国中学生選手権で3連覇を達成している。そのため、常に優勝候補に挙げられていたが、ちょっとしたミスでつまずくことが多く、本命というよりはダークホース的な存在だった。

 その才能が一気に開花したのは昨年の北京五輪最終選考会を兼ねた全日本選抜選手権大会。2回戦で五輪出場枠を取ってきた湯元を2−1で撃破し、決勝で高塚に敗れたものの準優勝の好成績。負けても高塚にフル・ピリオドまで粘ったこともあり、「小田はホンモノだ」ということを見せつけた。

 高塚と湯元の“五輪&世界3位コンビ”に、ここ3年で複数回の勝利を挙げている現役選手は小田だけ。今大会は小田の代名詞でもあるバネが効いた遠間からの両足タックルはもちろん、柔道経験者ならではの足技がさえた。湯元には右足払いで第2ピリオドの突破口を開き、高塚戦では流れを変える鮮やかな大内刈りで勝利をぐっと引き寄せた。

 惜しかったことは、決勝戦の最後がボールピックアップによる優先権を生かしての勝利だったこと。「クリンチになってしまった」と優勝インタビューで少し唇をかんだ。

 湯元、高塚という“二大スター”に勝利したのも「北京五輪はもう去年のことです」と、浮かれずに前だけを向いた。群雄割拠の60kg級ということもあって、小田の主な海外戦績は2007年のカナダカップ3位くらいで、世界ジュニア選手権やアジア・ジュニアなどの出場経験がない。“北京五輪世代”の壁を破り、新しい時代の幕を開けた小田裕之。「来年は世界選手権に出る」と2010年は本格的な海外進出を視野に入れた。


 小田裕之の話「来年につながる良い試合ができたと思います。今日の勝因は、とにかく集中すること。何度もアタックすることを心がけました。準決勝で湯元(進一)先輩に勝って2連勝ですが、湯元先輩をあまり意識しないようにして闘ったことが結果につながったのだと思います。湯元先輩もそうですが、誰が相手でも集中して戦うことを心がけました。

 準決勝の湯元先輩も決勝の高塚先輩も、次に闘ったら勝てるかどうかも分からないので、もう少しアタックできるように練習をたくさん積みます。試合直後の(マット上での)インタビューで北京五輪はもう終わったことと発言したのは、オリンピックの銅メダリストと戦うと意識してしまうと自分のレスリングができないと思ったからです」


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