【全日本選手権優勝選手】女子51kg級・甲斐友梨(アイシン・エイ・ダブリュ)【2009年12月23日】

(文=山口毅、撮影=矢吹建夫)



 まさに“政権交代”。女子51s級は、2004年アテネ&2008年北京両五輪48s級銀メダリストの伊調千春(ALSOK総合警備保障)が1階級上げ、決勝で甲斐友梨(アイシン・エィ・ダブリュ)に敗れた。

 第1ピリオド、甲斐が1度目は切られたものの、2度目の片足タックルからのテークダウンを決め、1−0でこのピリオドを先取。第2ピリオドもスタンドでバックに回りこんでからのテークダウンで1ポイントを奪っての勝利。伊調はこの階級で闘っていたわけではないが、五輪メダリスト&世界V3チャンピオンを無失点に抑えて優勝したのだから、政権交代といっていい快挙だろう。

 伊調は、妹の馨(63kg級)とカナダのバンクーバーで約8か月間、武者修行に行っていたが、首を負傷してしまい、治療のために10月に一度帰国していたことを明かした。「正直、満足いくような練習はできていませんでした。1回勝てればいいくらいの気持ちで臨んだので、決勝まで勝ち上がれたのも、自分では信じられない」と言う。

 そんな伊調のことだけを考えて練習してきたのが甲斐だった。昨年の全日本選手権でも2位に終わり、「私は万年2位の選手なんだと泣き崩れ、目の前が真っ暗になりました」と言う。しかし、その時、「伊調先輩がどなたかとお話をしていて、来年は51s級で(この大会に)出場するという話を耳にしたのです。自分を変えたい、強くなりたいと思っていた自分にとっては、この1年間、伊調先輩と戦うことだけを目標に練習を積んできました。伊調先輩と闘うのがすごく楽しみでした」と笑顔で語った話した。

 偉大なる先輩越えを果たせたのは、自分を切り替えることに成功したからであろう。今までは負け続けるとふさぎ込んでいた自分がいたが、率先して行動を起こすようにした。試合でポイントを取られたらどうしようという不安も、ポイントを取られることを考えるのではなく、自分からポイントを取ることを考えるようにした。だから伊調との決勝戦では、いけると思ったときのワンチャンスをものにしてポイントを奪ってみせた。

 「レスリングが好きで好きで、ずっとやってきてよかった。優勝できた瞬間、今までのいろんな思いが込み上げてきてしまいました」。そんな甲斐だが、今年の世界選手権(デンマーク)で3位になってしまったことを猛省している。「日本がずっと獲得してきた階級を私が落としてしまった。まずはそれを取り返さないといけませんね」。五輪銀メダリストを破った甲斐なら、きっとやれる!


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