【特集】「1試合、1試合を大事に闘う」という姿勢で復帰戦へ挑む女子63kg級・山本聖子(スポーツ・ビズ)【2009年12月15日】



 「ママで金メダル」を目指し、今年初頭に現役復帰宣言した世界V4の山本聖子(スポーツビズ=右写真)。結婚・出産を機に、2006年夏、幼少時代から愛してきたレスリングの現役生活に別れを告げたものの、仕事(レポーター)で2008年8月の北京オリンピックの現場を訪れ、「もう一度あの舞台で闘ってみたい」という闘志が沸き起こり、冒頭の言葉となった。

 1月の復帰会見の時から、当面の目標は4月の全日本女子選手権ではなく、12月の天皇杯全日本選手権と語っていた。その目標が間近に迫った今月7日、都内のYSA(山本スポーツアカデミー)で公開練習と会見を行い、63kg級に出場する4年ぶりの全日本選手権(12月21〜23日、東京・代々木競技場第2体育館=同級は23日)へ向けて、「1試合、1試合を大事に闘う」と抱負を話した。

■復帰後の2大会とは緊張感が全く違う全日本選手権

 復帰戦は、8月13〜14日にワルシャワで開催された「ポーランド・オープン」。かつて世界選手権で優勝した階級である59kg級で出場し、全試合快勝という内容で優勝。見事な復帰戦を飾った。しかし山本の目標は2012年ロンドン五輪出場だ。59kg級は五輪実施階級ではないため、減量してかつてのライバルであり世界の絶対女王、吉田沙保里(ALSOK綜合警備保障)がいる55kg級で出場するか、階級を上げて、やはり五輪2連覇を果たした伊調馨(ALSOK綜合警備保障)がいる63kg級に臨むのかが注目された。

 世界V4の実績があるとはいえ、ここ数年試合に出ていない山本が全日本選手権の出場資格を得るためには、10月に行われた全日本女子オープン選手権の優勝が条件だった。この大会の63kg級に出場した時点で、63kg級でオリンピック出場を目指すと思われていた(左写真=全日本女子オープン選手権に出場し、優勝した山本)

 しかし、ポーランド・オープン優勝の実績をもって、59kg級の強化委員会推薦を申請する道もあった。その場合は、いずれ55kg級へ落とす可能性も残されていたが、7日の会見で、ロンドン五輪へ向けて63kg級で闘っていくことが確実となった。

 8月の復帰戦と10月の国内復帰戦で連続優勝したとはいえ、全日本選手権となると緊張感がまったく違うようで、「ワクワク感とドキドキ感が同居している感じです。天皇杯は気持ちの入り方がまるっきり違います」と言う。

 全日本選手権が4年ぶりの出場になることに関しては、「覚えてないですけど、精神面も技術面も徐々にですが向上してきている感触はあります」と話す。一方で、女子オープンで初めて63kg級に出場した際、「パワー不足を実感した」ことも明かした。

■伊調馨との対戦は、8年ぶりのリベンジをもかけた闘い

 それ以降、下半身と上半身の体力強化に努めた。今回の全日本選手権は、その成果を試す場であり、山本自身の挑戦でもある。やはり、復帰に関しては様々な不安があったようで、「天皇杯の出場権利が得られたことにホッとしています。出場するからには次のステップに進みたい」と、2010年の世界選手権(9月、モスクワ)が視野に入っていることがうかがえる。

 だが、63kg級には2004年アテネ・2008年北京両五輪金メダリストの伊調馨がいる。山本は伊調に「ガツガツ向かってくるイメージ」という印象を持っているという。五輪2連覇の伊調の壁を突破するのは容易ではないだろう。

 それだけではない。山本自身の記憶にはわずかしか残っていないようだが、現役世界チャンピオンとして臨んだ2001年の「ジャパンクイーンズカップ」(現全日本女子選手権)の56kg準決勝で両者は対戦し、当時16歳だった伊調にフォールで敗れている(右写真=世界チャンピオンに勝ち、喜ぶ伊調)。この後、伊調は階級を上げて63kg級の不動のチャンピオンとなっていった。山本にとっては、五輪チャンピオンへの挑戦であると同時に、8年ぶりのリベンジの舞台でもある。

■“前門の虎”を破っても、後門には現役の世界チャンピオンが待つ?

 ところが! 伊調が“前門の虎”であるならば、“後門の狼”の存在がいるからやっかいだ。言わずと知れた西牧未央(中京女大)の存在。同大学で伊調の背中を追い続けていた西牧は、昨年東京で開催された世界選手権で初優勝し、ことし9月にデンマークで開催された世界選手権でも優勝。今回の全日本選手権で伊調の壁を破り、“政権交代”をもくろんでいる。

 女子オープンでパワー不足を感じたという山本にとって、世界で通用しているこの2人には、よりパワーを感じることが予想できる。とはいえ、63kg級で出場する時点で、この2人の存在は分かっていたはず。山本にしてみれば、「想定内」の今回の63kg級挑戦。データ的にみれば、西牧とは2006年の「ジャパンクイーンズカップ」で対決し、勝っている実績もある。

 山本の今回の全日本選手権は、特定の相手を意識して闘うことではなく、「1試合、1試合を大事に闘う」が目標。しかし、「頑張った結果、そういったもの(優勝)がついてくればいいと思っています」と話し、はっきり口にはしなかったものの、栄光を手にすることを考えているのは間違いない。ロンドン五輪で「ママで金メダル」を獲得するために…(左写真=8月の復帰戦で優勝した山本。再現なるか)


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