【特集】幾多の困難を乗り越え、創部10年目での栄光! 日本文理大が西日本を変える!【2009年12月7日】

(文・撮影=樋口郁夫)



 どの大会に出場する場合でも遠征を余儀なくされる日本文理大(大分県大分市)が、創部10年目にして西日本の王者に輝いた。世界選手権代表だった勝龍三郎監督、大学王者だった後藤秀樹コーチのコンビになってから4年目。九州の高校の強豪選手もなかなか来てもらえない新興大学が、西日本学生レスリングの歴史に新たな1ページをつくった(右写真=後藤コーチをねぎらう勝監督)

■「普通の部活動」の中で、選手が自主性を持って練習

 苦しい決勝戦だった。徳山大は予選ブロックで6連覇を目指す立命館大を撃破。波に乗って決勝のマットに臨んだ。マットサイドで応援する部員数も徳山大の方が多く、より熱い声援が送られている。日本文理大はチームスコア2−3とされ、残る2階級はともに1年生選手。この時点で優勝は徳山大と考えた人が多かったことだろう。

 だが2人の1年生が踏ん張り、優勝旗を大分へ持ち帰ることができた。勝龍三郎監督は何度か「1年生がよくやった」という言葉を口にしつつ、それを支えた上級生をも選手をねぎらった。

 鹿児島商工高(現樟南)〜日体大でレスリングに打ち込んだ勝監督からすれば、地方の新興大学でのチームづくりは、経験したことのない困難との闘いだった。日本文理大の付属高校時代に全国のトップレベルだった選手はいるものの、全体としてみれば高校時代にはさして実績のない選手の方が多い。部員集めは決して楽ではなかった。

 部の存続が危なくなった時もあった。そんな苦労を乗り越え、「レスリングが好きな子が集まってくれました。よく練習しています」と振り返る。瀬戸際の状況を勝利につなげることができたのは、「選手が率先して練習をやってきたことではないでしょうか」と言う(左写真=優勝旗・カップなどを受賞する日本文理大の選手)

 5年前までは3位以内に入ることはなかったチーム。2005年から3位というのが続き、今年の春季大会で初めて2位へ。そして今回が優勝とステップを踏んで上がってきた。急成長の大学にありがちな大学からの特別待遇があるわけではなく、入学金・授業料免除といった特待生制度はない。「授業もさぼらせません」と勝監督。「普通の部活動なんですよ」とのことで、勝監督の今年の誇りのひとつが、4年生がいずれもしっかりした企業に就職できたこと。こうした人間教育が、マット上の好成績につながったのかもしれない。

■優勝後に涙ボロボロの後藤秀樹コーチは「チームメートに感謝したい」

 優勝が決まっても冷静だった勝監督とは対照的に、胴上げをされて感涙極まったのが後藤コーチ。高校教員である勝監督が仕事の関係で練習に参加できないこともあるのに対し、後藤コーチは常に練習を見ている。それだけに4年間の苦労が思い出され、涙が止まらなかったのだろう。

 「(職員として)大学に来た時に入学した選手が、今の4年生。ともに歩んでききました。コーチというより、チームメートのような気持ちもあるんです。だから、思わずぶざまな姿を見せてしまいました」と涙の理由を説明した(右写真=胴上げのあと、感極まって涙が止まらなかった後藤コーチ)

 今月の全日本選手権にもエントリーしているバリバリの現役選手でもある(グレコローマン74kg級)。チームが後のない状態から踏ん張れた要因は「ボクのわがままにつきあってくれ、よく練習してくれたことだと思います」と言う。コーチの練習熱心さが、選手に伝わったということか。伸びるチームには必ずひたむきな指導者がいるもの。後藤コーチの指導のみならず自らへの厳しさが優勝につながったことは間違いないだろう。

 勝監督と同じ日体大の卒業生。勝監督が会社員や高校教師を経験して監督に就任したのに対し、卒業してすぐに職員に採用されてコーチとなった。それだけに柔軟性に欠けた面はあったようだ。「最初の年は4年生とよく衝突しました」。しかし時間をかけてでも歩み寄り、「信頼関係を築けたんじゃないかな」と振り返る。

 同コーチにとって「団体優勝」というのは格別の思いがある。大学4年生だった2005年は、日体大が31年ぶりに団体戦無冠に終わった年。最高学年で団体優勝がなかった心残りがずっとくすぶっていたことも、うれしさが倍増する要因。「チームメートに感謝したい」と表現し、学生時代に達成できなかった団体優勝の感激を味わっていた。

■西日本学生界の誇りと目標になれるか

 勝監督は、大分にキッズから社会人までがレスリングをできる体制づくりを目指すという。「そうやってレスリング熱を盛り上げれば、もっと強くなれます」と言う。後藤コーチは「これがゴールと思わず、スタートと思ってほしい。来年は自信をもって全日本レベルの大会に乗り込みたい」と気合十分。昨年の全日本大学グレコローマン選手権で徳山大が団体3位に入賞した時はうれしく、励みになったとのことで、「来年はウチが西日本のチームの励みになるような成績を残したい」と話し、飛躍を誓っていた。


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