【特集】念願の地元・和歌山で太田拓弥・早大コーチが障害者レスリング教室を開講【2009年12月5日】

(文・撮影=増渕由気子)



 1996年アトランタ五輪フリースタイル74kg級銅メダリストの太田拓弥・早大コーチの夢がまた一つかなった−。2006年から取り組んでいるダウン症・自閉症を持つ人のレスリング教室「ワクワクレスリング教室」を、ついに地元・和歌山で開校にこぎつけた。11月30日、和歌山県立東和歌山高で東京、京都、神奈川・熊本、富山に続いて6校目の教室をスタートさせた(右写真=参加者と記念撮影)

 地元開催とあって、いつもよりも気合が入った太田コーチ。ワクワクレスリング親善大使として2008年北京五輪男子フリースタイル60kg級の湯元健一(ALSOK綜合警備保障)を右腕に、さらに今回は左腕として特別にその弟で今年の55kg級世界選手権代表の進一(自衛隊)を引き連れて堂々の和歌山入りだった。

 和歌山教室開催のきっかけは、昨年新宮で行われたキッズ大会だった。「会場にダウン症の子が一人いたんです。おそらく選手の兄弟で応援に来ていたのでしょう」。当時、太田コーチはすでに障害者レスリングに取り組んでいて、新聞や雑誌などで注目されていた。そのためか、そのダウン症の親が太田コーチにあいさつしてきたのだ。「娘なので、(格闘技である)レスリングをやれるかどうかわからないけど、とにかく太田さんのこと応援しています。がんばってください」。

 愛する地元に自身の活動を知っていてくれる人がいる―。約3年間の地道な活動が報われた瞬間だった。これがきっかけとなって、「本格的に和歌山支部を作ろうと思った」そうだ。まずは、地元の組織作りに取り組んだ。まず、日体大の後輩で障害者スポーツ協会に勤務する高橋伸尚氏に依頼し、ダウン症や自閉症の人向けのレスリング教室を行うことを告知してもらった。教室の責任者は、地元で岩出ジュニア・クラブを営む大学の先輩の中村文二氏にお願いした。

■開講してくれる教室には、湯元健一選手とともに駆けつけます!

 今回申し込みのあったダウン症や自閉症のキッズは20人を超えていたが、流行りのインフルエンザなどで急きょ不参加になった子どもたちもいて、最終的に16人。しかし、指導補助員として参加した地元の高校生などを合わせると、一面マットは、またたく間に満員御礼状態。レスリングのビデオ観賞や湯元兄弟による実演のルール説明を1時間ほど行い、残りの1時間は、マット運動や簡単なタックル練習を行った(左写真=指導する湯元健一選手)

 参加したちびっ子たちからは「レスリングが今日好きになった」「またやりたい」などの声が相次いだ。印象的だったのは、どのちびっ子たちも笑顔が絶えなかったこと。障害のくくりを忘れてしまうほど、無垢(むく)な姿だった。太田コーチはこの笑顔に勇気をもらうという。本職である早大コーチとして勝ちに行った11月中旬の全日本大学選手権では、まさかの優勝を逃した。「相当落ち込んでいました。でも、この笑顔でまた頑張ろう』という気持になりました」。早大コーチ、一般のキッズクラブ、さらに全国展開を始めたワクワク。多忙を極める太田コーチの元気の源はここにあったのだ。

 和歌山支部の次回は中村氏を中心に開催される予定。中村氏は「今回、太田コーチ、湯元選手の指導を見て、運営方法のイメージがつきました。これから話し合って、ぜひ来年の5月ごろに2回目を開催したい」とプランを話した(右写真=タックルを指導する太田コーチ)

 大成功に終わった和歌山校のこけら落とし。太田コーチは「現在は7校目の開催を企画しています。ぜひ、ダウン症&自閉症の人のレスリング教室に興味のある方は連絡してください。私と湯元(健一)が日本全国どこへでもお邪魔して、お手伝いします」と、さらなる教室の拡大に意欲を見せていた。


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