【特集】逸材はばたくか? 北京五輪フリー60kg級銅メダリストのリベンジを受ける小田裕之(国士舘大)【2009年11月21日】

(文・撮影=樋口郁夫)



 今年の天皇杯全日本選手権(12月21〜23日、東京・代々木第2体育館)の男子フリースタイル60kg級は、2008年北京五輪銅メダリストの湯元健一(ALSOK綜合警備保障)が復帰参戦する一方、全日本王者であり世界選手権5位の前田翔吾(日体大)がチームの出場停止処分によって欠場する。そうした状況下で、湯元に挑む一番手はだれか? 今月の全日本大学選手権で優勝し、学生二冠王に輝いた小田裕之(国士舘大)が浮上してきた(右写真=全日本大学選手権決勝で闘う小田)

 “湯元に挑む”という表現は、厳密には当たっていない。湯元のリベンジを受ける立場だからだ。北京五輪を前にした2008年6月の明治乳業杯全日本選抜選手権の2回戦で、五輪出場資格を取ってきて日本代表権獲得に燃えていた湯元を小田は2−1で撃破する殊勲を挙げている。第1ピリオドはタックルとガッツレンチによる6−0のテクニカルフォールという内容だった。

 この時は決勝で高塚紀行(日大コーチ)に敗れ、北京五輪への道が閉ざされたが、五輪で銅メダルを取った湯元に最直近で黒星をつけたのが小田だった。

 その後の2度の学生の大会や全日本選手権では優勝に見離されてしまい、やや影が薄くなってしまったが、今年の学生二冠獲得によって、いよいよ本領を発揮してきた。「この大会の内容ではダメ。もっとポイントを取りにいくレスリングをしたい」と謙虚に話し、あと1ヶ月の強化に全力を挙げて臨み、全日本初制覇へ燃えている。

■クリンチの防御を勝利につなげる粘りは見事だったが…

 全日本大学選手権で優勝しても「内容に不満」というのは、階級を下げてきた66kg級学生王者の石田智嗣(早大)と、昨年のこの大会で負けている内村勇太(拓大)の試合を指すことは言うまでもない。石田との試合は、2−1の勝利だったが、勝った2ピリオドはともにクリンチの防御で取ったもの。「粘り強い」と言えば聞こえはいいが、一歩間違ったら負けていた試合だった(左写真=石田のクリンチからの攻撃を粘る小田)

 それは決勝の内村戦も同じ。ピリオドスコア1−1のあとの第3ピリオド、0−0のあとクリンチの防御になってしまい瀬戸際に追い込まれた。ここから相手のクラッチを切って30秒を守り切っての勝利。冷や汗ものの優勝だった。

 粘り強さを発揮しての優勝というプラスはあり、「集中できていた」と合格点をつけたが、2分間でポイントを取って勝つ内容でなければ、次につながらない。反省の言葉が出てくるのはもっともだろう。

 ポイントを取ることができなかった原因は、自分有利の組み手はしっかりとつくることができたものの、そこからの攻撃に勇気が足りず、最後の一歩を踏み込むことができなかったと分析している。「試合の流れは常に自分がつくっていたと思います」という思いがあるだけに、あと一歩の壁を破れなかったことがもどかしそう。

■世界選手権と五輪の銅メダリスト2人に勝ち越している対戦成績!

 小田の成長を支えているのは、全日本のコーチとして手腕を発揮していた和田貴広コーチだ。日本協会専任コーチから昨年大学に戻り、指導を続けてきた。その和田コーチも、クリンチの防御をしのいだ粘りを評価する一方で、「2分間をもっと大事に闘わなければならない」と苦言を呈する。

 ポイントを取れなかった原因を聞くと、「踏み込む勇気が足りなかった」と、小田と口裏を合わせたかのような分析。「世界で勝つためにはリスクをおかしてでも攻めてポイントを取るレスリングをしなければならない。やらせたい」と厳しく言った。

 「放っておいても練習をしっかりやるタイプ、海外の試合のビデオなどを積極的に見て自分のレスリングに取り入れる研究心も高い」と和田コーチ。大学2年生にして北京五輪銅メダルに輝く選手(湯元健一)を破ったほか(右写真=2008年全日本選抜選手権で湯元にタックルを決める小田)、2006年世界3位の高塚紀行(日大コーチ)には今年6月の全日本選抜選手権で勝って対戦成績が3勝1敗へ。

 2008年には同年の世界学生王者に輝くことになる大沢茂樹(山梨学院大=現プロ格闘家)を破り、今年は出場しないが世界5位の前田翔吾にも大学進学後の対戦成績では3勝1敗と勝ち越している。

 これらの事実からして、小田の技量は世界で通じるものであることは間違いない。学生二冠を獲得して波に乗っている今年の全日本選手権での闘いが楽しみ。2001〜03年に男子で史上3人目の全国中学生選手権3連覇を達成した逸材が、いよいよ世界へはばたくか。


 ◎小田裕之の大学進学後の主な成績

 《2007年》

 【JOC杯ジュニアオリンピック】
準々決勝 ○[判定]内村 勇太(拓大)
準決勝   ●[1−2(0-2,1-0,3-3L]紋谷 哲平(日大)

 【東日本学生リーグ戦】
5回戦 ●[0−2(0-1,0-1)]菊地憲(日体大)
6回戦 ●[1−2(0-1,3-0=2:05,0-2=2:05)]安沢薫(早大)
7回戦 ●[0−2(0-3,1-1L)]大沢茂樹(山梨学院大)

 【東日本学生春季新人戦】
決 勝 ○[判定]前田翔吾(日体大)

 【全日本学生選手権】
4回戦   ○[2−1]前田翔吾(日体大)
準々決勝 ○[2−0]松本桂(早大)
準決勝   ●[1−2]大沢茂樹(山梨学院大)

 【全日本学生王座決定戦】
2回戦  ○[2−1(1-2,3-0=2:03,1-0=2:30)]高塚紀行(日大)
準決勝 ●[0−2(1-3=2:05,1-1L)]安沢薫(早大)
3決戦  ●[フォール、2P1:34(3-2、F1-4)]内村勇太(拓大)

 【全日本大学選手権】
準決勝 ○[2−0(1-0=2:04,1-0=2:10)]高塚紀行(日大)
決  勝 ●[1−2(1-0,0-3=2:01,0-4)]大沢茂樹(山梨学院大)

 【全日本選手権】
1回戦 ○[2−1(3-0,0-1=2:28,3-0=2:03)]前田翔吾(日体大)
2回戦 ●[0−2(0-2=2:10,1-3)]大館信也(自衛隊)

 《2008年》

 【JOC杯ジュニアオリンピック】=66kg級
決 勝 ○[2−0]石田智嗣(早大)

 【東日本学生リーグ戦】
5回戦 ○[2−0(3-0,4-0)]紋谷哲平(日大)
6回戦 ○[2−0(1-0=2:10,1-0)]大沢茂樹(山梨学院大)

 【全日本選抜選手権】
1回戦  ○[2−1(3-0,0-1=2:10,1-0)]清水聖志人(クリナップ)
2回戦  ○[2−1(6-0=1:12,0-3,3-0=2:03)]湯元健一(日体大助手)
準決勝 ○[2−1(1-0=2:27,0-4,1-0=2:02)]大沢茂樹(山梨学院大)
決  勝 ●[1−2(2-0,1-4,0-3=2:02)]高塚紀行(日大コーチ)

 【全日本学生選手権】
準決勝 ●[フォール、1P0:48]洞口幸太(日体大)

 【全日本学生王座決定戦】=66kg級
1回戦 ○[2−0(1-0=2:14,3-0=2:07)]石田智嗣(早大)

 【国民体育大会】
準々決勝 ○[2−0(2-0,3-0)]大館信也(自衛隊)
準決勝   ●[0−2]大沢茂樹(山梨学院大)

 【全日本大学選手権】
準決勝 ●[フォール、2P0:32(2-0、F0-3)]内村勇太(拓大)

 【全日本選手権】
1回戦 ○[2−0(1L-1,3-0=2:03)]松本桂(早大)
2回戦 ●[0−2(0-2.0-3)]菊地憲(警視庁大井警察署)

 《2009年》

 【全日本選抜選手権】
1回戦 ○[2−0(2-1,1L-1)]高塚紀行(日大コーチ)
2回戦 ●[0−2(0-2=2:03,4-5)]前田翔吾(日体大)

 【全日本学生選手権】
決 勝 ○[2−0(1-0,7-2)]田中幸太郎(早大)

 【全日本学生王座決定戦】
1回戦 ○[2−0(1-0,3-0)]田中幸太郎(早大)

 【全日本大学選手権】
3回戦   ○[2−0(5-1,1-0)]紋谷哲平(日大)
準々決勝 ○[2−1(2-0=?,0-1,1-0=2:09)]石田智嗣(早大)
準決勝   ○[2−0(2-0,3-0)]矢野吉住(立命館大)
決  勝   ○[2−1(0-1=2:03,3-0,1-0=2:30)]内村勇太(拓大)


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