【特集】かけがえのない5年間、その集大成の新潟国体で準優勝…萱森浩輝(新潟県央工高教)【2009年10月3日】

(文・撮影=増渕由気子)



 9月下旬に新潟市で行われた第64回国民体育大会「トキめき新潟国体」で、地元のエースとして成年男子フリースタイル74kg級にエントリーした萱森浩輝(新潟県央工高教=右写真)は、準優勝という結果だった。

 第1シードとして名を連ねた萱森だが、組み合わせに地元のエースというアドバンテージは一切なかった。初戦の2回戦は北京五輪予選日本代表の高谷惣亮(京都・拓大)、準々決勝は6月の全日本選抜選手権で黒星を喫している全日本選抜3位の奈良部嘉明(茨城・山梨学院大ク)、準決勝の相手は、アトランタ五輪銅メダリストの太田拓弥(和歌山・NPO法人ワセダク)など、いばらのトーナメントを勝ち抜いての準優勝。内容はすべて2−1と薄氷の勝利だった。

■初戦突破のために練りに練った「高谷対策」

 高谷と初戦を闘う可能性が高いことを知ると、萱森は気を引き締めた。高谷とは2008年の全日本選抜選手権決勝で対戦し、勝っている相手だが、2007年全日本選手権では高校生で全日本選手権2位となり、五輪予選も経験したスーパー選手。萱森は「一番頑張らなければならない国体で、初戦敗退だけは許されない」と、試合直前は高谷対策に没頭した。

 「距離を取ると高速タックルに来るので、間合いを詰め、タックルに来たらがぶるようにした」という作戦は見事的中。ともにクリンチで1ピリオドを分け合い、第3ピリオドの後半にタックルで高谷を場外へ押しやって決勝点を挙げた(左下写真)

■準々決勝と準決勝での2度のチャレンジは、ともに相手のポイントに

 最大のヤマ場を乗り切った萱森だったが、準々決勝と準決勝は苦しい試合を強いられた。奈良部戦の第2ピリオド、萱森がタックルで奈良部に尻もちをつかせた。だが、チャレンジにより、審判は萱森が場外へ出たのが先と判断し、奈良部のピリオドに。準決勝の太田戦の第1ピリオドも、萱森がタックルを仕掛けてからの一連の動作が、太田側のチャレンジにより判定が覆った。

 チャレンジにより、萱森の流れが相手に傾くという嫌な流れだったが、萱森に焦りはなかった。「最後にはオレが取れると思っていた」。確かに、チャレンジとされた部分の動きのアクションはすべて萱森のタックルからであり、萱森らしい前に前に出るレスリングはできていた。潟県の原喜彦監督からも「審判とレスリングやってるわけじゃないんだから」とうながされた萱森の集中力は最高潮に高まっており、太田を2−1で下して決勝へ進出した。

 決勝戦の相手の鈴木崇之(東京・警視庁)は、北京五輪前までは66kg級だった選手。2007年はともに世界選手権に出場した仲間だった。階級アップから1年が経ち、74kg級にふさわしいボディを手に入れた鈴木は、動きも良く、フルピリオドで勝ち上がった萱森とは対照的に全試合をストレートかフォールで勝ち進んできた。

 決勝戦で一番の歓声が挙がった萱森−鈴木の一戦は、両者ともに高速タックルが最大の武器。壮絶なタックル合戦の試合になった。最初にタックルに入ったのは萱森だったが、鈴木が絶妙なバランスでしのぐと、中盤にカウンターで1点を奪取。第2ピリオドも、萱森が無理に入ったところを鈴木にバックを奪われて痛恨の失点。ストレートで敗れた(右写真)

 だが、「クリンチになるとどうなるか分からないし、悔いが残ることだけはしたくなかった」と、最後まで自分のスタイルを貫いた。地元で優勝という使命は果たせなかったが、その表情はすがすがしかった。

■大学卒業後、新潟で強くなった萱森

 振り返ると、新潟国体のおかげで萱森はスターになれた選手だった。日体大時代は、2年生の時にJOC杯ジュニアオリンピックで優勝するものの、学生タイトルなどのビッグタイトルはなし。国体の強化選手として新潟に戻ってから、頭角を現した。

 3年前の兵庫国体で太田拓弥に勝って2位になると、同年度の全日本選手権では、2000年シドニー五輪代表でプロ格闘家としてやっていた宮田和幸や、国内で無敵の存在だった小幡邦彦(当時ALSOK綜合警備保障)に黒星をつける殊勲。翌2007年の全日本選抜選手権では、長島和幸(クリナップ)に本戦、プレーオフと連勝し、世界選手権の代表に。一気に北京五輪を目指せるポジションに成長した。

 「新潟国体のおかげですよね」と笑顔で強化生活の日々を振り勝った萱森。準優勝という成績は、12月の天皇杯全日本選手権で借りを返したいところだ。同大会は長島が昨年までに3連覇を達成している。「同じ人ばかりが優勝しては、みなさん、飽きるでしょうから」。萱森の“全国制覇”の道のりはまだまだ続く。


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