【特集】北京五輪までとは違う吉田で世界V9…女子55kg級・吉田沙保里(ALSOK綜合警備保障)【2009年9月25日】

(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)



 タックル返しを警戒してか、正面タックルと片足タックルを交互に使い、相手のカウンターの的を絞らせなかった吉田。次から次へとタックルを決め、全く危なげない試合で、急成長を見せているアゼルバイジャンの20歳の新鋭、ソナ・アメドリを一蹴。7大会連続7度目の優勝、2度の五輪を入れれば9度目の世界一に輝いた。

 栄監督との恒例のパフォーマンスは、2人の呼吸が合わず“失敗作”となってしまったが、栄監督と父・栄勝コーチとに抱え上げられ(右写真)、日本からの応援団が陣取る方に万感の思いをこめてガッツポーズ。これまでは、いつも観客席からの応援だったが父がそばにいてくれた。全日本チームのコーチとなり、初めて間近で祝福をうけた。最高の環境の下で最高の試合をやり、2012年ロンドン五輪での五輪3連覇へ向けての道を、力強く歩み始めた。

■アテネのメダリストからは研究されていたが、有効だったのはタックル

 歴史の浅いアフリカのマダガスカルの選手との初戦。初めて吉田の試合を取材したある社の記者が「スポーツカーと普通の車の違いみたいですね」と評したほど、けた違いの実力を見せた。しかし2回戦の元世界チャンピオンでアテネ五輪3位のアンナ・ゴミス(フランス)、3回戦の北京五輪5位のアンナ・マリア・パバル(ルーマニア)、準決勝のアテネ五輪2位・北京五輪3位のトーニャ・バービック(カナダ)と、やや慎重な闘いが続いた。

 「研究されています。きつかったです。ルーマニアは強かったけど本当に怖くはなかった。やはりオリンピックの表彰台に上がっている選手は違います」と話し、ゴミスとバービックの試合が「実質的な決勝戦」と振り返った(左写真=ゴミスと闘う吉田)

 それらの試合でも有効だったのはタックル。今春から、タックルは研究されているので他の技を取り入れ、攻撃の幅を広げる練習を積んできたが、「やはりタックルは捨てきれない。私にとって一番大事なものです」という。その中にも、腕を取っての攻めや、相手を振っての攻撃なども多少取り入れてきた。

 「タックル一辺倒では、切られたり、返されたりするので、こうしたフェイントを使えたことが有効でした」。ゴミス、バービックとも何度も闘い、研究されていたからこそ、決定力にはならなくとも、練習してきたタックル以外の技が有効だったと振り返る。

 また、力を入れてやってきた筋力トレーニングの成果も出た。「今までは、試合が終わると腕が張って力が入らないこともあった。今回はそれがなかった。体力(筋力)がついたからかな、と思う」そうで、わずかだが北京五輪までの吉田と変わった吉田での世界一だったようだ。

■見えてきた? アレクサンダー・カレリン(ロシア)の大記録

 決勝戦は楽勝だったが、今後は決して気を緩めることのできない相手だ。「アゼルバイジャンは、この日までに3階級で決勝に行っています。ヨーロッパはどんどん力をつけています」と、追われる者の辛さを感じ始めている。

 「やっぱり体力です。福田会長は常に『体力が必要』と言っています、体力があれば、試合数が多くなって勝てるし、年をとっても勝てます」と、周りのレベルアップに対しての新たな方向性も見えてきた。

 3年後がしっかりと見えてきた大会だったが、その前年の2011年まで勝ち続ければ、男子で不滅の金字塔を打ち立てたアレクサンダー・カレリン(ロシア)の世界選手権優勝記録「9度」に並ぶことになる。しかし、この話題には「プッ!」と吹き出し、「男子と女子の違いもあるし…」と控えめな対応。

 それでも、表彰式のあとに福田富昭会長から「カレリンに追いつけ。必ず追いつける」とのゲキを受け、「はい」と気持ちを新たにしていた。25日は67kg級の井上佳子と72kg級の佐野明日香の応援に回る。「主将としての責任をまっとうしたい」と話し、最後のエネルギーを振り絞る。


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