【特集】世界選手権へかける(21)完…女子55kg級・吉田沙保里(ALSOK綜合警備保障)【2009年9月17日】

(文=増渕由気子)



 前人未到の五輪三連覇を目指して−。2004年アテネ・2008年北京両五輪女子55kg級の金メダリスト、吉田沙保里(ALSOK綜合警備保障=左写真)が、五輪と世界選手権合わせての世界9連覇に挑戦する。

 北京五輪では地元・中国の選手をフォールで下して勝利の雄叫びを挙げ、表彰式では大粒の涙をこぼし、日本全国に感動を呼んだ。金メダルのためだけに走ってきて力のすべてを出したが、吉田の2012年ロンドン五輪への道に長期的な休養は無用だった。休むことなく2ヶ月後に東京で行われた世界女子選手権に出場し、貫禄の世界V8を達成した(右写真=8度目の世界一を達成し、父・栄勝さんを肩車)

■北京五輪後も休むことなく走ってきた日本のエース

 12月の全日本選手権に“がい旋出場”も果たした。「私は、一度やめたら、復帰できないと思います」と吉田。家族で旅行に行くなど短期で休みを取りつつマットで汗を流し、今年3月のワールドカップ(中国)は控えメンバーに回って客観的に世界を見つめ、気持ちをリセットしてきた。

 五輪翌年の世界選手権は、レベルが一段落落ちるとも言われている。しかし今年の55kg級は長年のライバル、ナタリア・ゴルツ(ロシア=2005〜07年欧州チャンピオン、北京五輪8位)、アテネ五輪銀メダリストのトーニャ・バービック(カナダ)なども出場し、吉田にとってはやりがいのあるV9の戦いになりそうだ。

 「去年の世界選手権に出場してきた選手はほとんどがジュニアの選手だった。今回は気合を入れ直して臨みたい」。五輪V2の余韻に浸った期間はもうおしまい。5月のアジア選手権(タイ)は欠場して世界選手権へ向けての充電期間とし、7月下旬から始まった合宿では、タックル中心だった以前スタイルを捨てて、がぶりなど他の技の習得を積極的に行った。

 「出場選手を見て、自分のことも研究されていると思う」と世界のレベル向上に警戒心を抱く吉田。だからこそ、新技をどんどん取り組んだ。「いざとなったらタックルを出すと思いますが…」と前置きしたが、新技の精度も高くなっており、新スタイルをできる限り世界の舞台で披露するつもりだ。

■イチローは9年連続200安打を達成! 吉田は世界9連覇を目指す!

 8月の半ばからは、毎日1時間ほど押しの練習を多くこなした。「今のルールは場外に出せばワンポイント取れる。また、この練習をすることによって、体幹が鍛えられて、横に振られることもなくなる」。吉田は大の相撲好きで、角界の知り合いも多い。好きな関取は朝青龍。「風格があって、どっしりと動じないところを目指す」と、朝青龍のような横綱相撲を目指して押しの練習に取り組んできた。

 とはいえ、現在のナショナルチームは昨年までの環境とだいぶ違う。今までは年齢的に中堅クラスだったが、今では上から2番目。「オリンピックを区切りに、新しいメンバーになった。ロンドン五輪まで負けなしで、新しいメンバーを引っ張っていきたい。私ができるところまで持ち上げたい」と、チームの主将として後輩に世界での戦い方を伝授する予定だ(左写真=全日本合宿で練習する吉田)

 9月10日の公開練習では、股(こ)関節の筋肉を痛めて別メニューをこなしていた吉田だが、14日の日本サッカー協会のS級ライセンス取得希望者による体験練習では、練習を仕切るなどリーダーシップを発揮。30kgも重たい元サッカー・ワールドカップ代表の城彰二氏らの体験スパーリングを快く引き受け、鮮やかなテークダウンを奪ってみせた。

 14日は、野球界で一つの不滅の金字塔が打ち立てられた。大リーグのイチロー(マリナーズ)が9年連続200本安打を達成し、大リーグ記録を108年ぶりに塗り替えた。「9」の数字は、吉田が狙うV9と同じ数字。「イチローは9年連続の200本安打。吉田選手は9度目の優勝を狙うってことですね」との問いに、「そうですね!」と満面の笑顔で返してくれた。「9回目の金メダルをとって、吉田は強いと言われたい」。今回も有言実行なるか―。

吉田沙保里(よしだ・さおり)=ALSOK綜合警備保障

 1982年10月5日、三重県生まれ、26歳。三重・一志ジュニア出身。三重・久居高〜中京女大卒。少年少女レスリング時代から名をとどろかせ、同世代の大会で無敗。1999年世界カデット選手権優勝のあと、2000・01年の世界ジュニア選手権で2連覇。

 2002年はアジア大会で勝ち、世界選手権に初出場初優勝。続く全日本選手権でも勝った。2003年に世界V2を達成し、2004年のアテネ五輪で優勝。2005年にワールドカップ、アジア選手権、ユニバーシアード、世界選手権、2006年にワールドカップ、世界選手権、アジア大会と優勝を重ね、2007年もアジア選手権、世界選手権で優勝。

 2008年1月のワールドカップで連勝記録は途切れたが、同年のアジア選手権で優勝して再起。北京五輪で2連覇を達成し、続く世界女子選手権でも優勝。全日本選手権で7連覇を達成し、2009年全日本女子選手権でも優勝。156cm。

 ◎吉田沙保里の最近の国際大会成績

 《2007年》

 【アジア選手権】優勝(9選手出場)
1回戦  ○[フォール、1P0:57(F7-0)]Su Ying-Tzu(台湾)
準決勝 ○[フォール、1P0:24(F4-0)]Hong Hyang-Rae(韓国)
決  勝 ○[2−0(5-0,5-2)]Su Lihui(蘇麗慧=中国)

 【世界選手権】優勝(38選手出場)
1回戦  ○[2−0(3-0,TF6-0=1:12)]Jessica Bechtel(ドイツ)
2回戦  ○[フォール、2P0:36(4-0,F6-0)]Joica Silva(ブラジル)
3回戦  ○[2−1(2-3,2-1,3-0)]Jackellne Renteria(コロンビア)
4回戦  ○[2−0(@L-1,4-2)]Olga Smirnova(カザフスタン)
準決勝 ○[2−0(1-0,TF6-0=0:42)]AlenaFilipova(ベラルーシ)
決  勝 ○[2−0(1-0,TF7-0=1:00)]Ida-Therese Karlsson(スウェーデン)

 《2008年》

 【女子ワールドカップ(団体戦)】=個人順位不明
予選1回戦 ○[2−0(1-0,5-0)]Nataliya Synyshyn(ウクライナ)
予選3回戦 ●[0−2(1-4,2-AB)]Marcie Van Dusen(米国)

 【アジア選手権】優勝(11選手出場)
1回戦  ○[2−0(1-0,3-0)]Tomar Alka(インド)
2回戦  ○[2−0(3-1,6-3)]Xu Li(許莉=中国)
準決勝 ○[フォール、2P0:53(1-0,7-0)]Otgonjargal Naidan(モンゴル)
決  勝 ○[2−0(1-0,TF6-0=1:58)]Abdrakhmanova Saltanat(カザフスタン)

 【北京五輪】優勝(16選手出場)
1回戦  ○[2−0(3-1,4-0)]Ida-Theres Nerell(スウェーデン)
2回戦  ○[2−0(2-1,4-0)]Natalia Golts(ロシア)
準決勝 ○[2−0(2-0,6-0=1:59)]Tonya Verbeek(カナダ)
決  勝 ○[フォール、2P0:43(2-0,F5-0)]Xu Li(許莉=中国)

 【世界女子選手権】優勝(23選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[フォール、1P0:20(F6-0)]Kamlesh Devi(インド)
3回戦  ○[フォール、1P0:40(F2-0)]Zwirydowska Anna(ポーランド)
準決勝 ○[フォール、1P0:25(F4-0)]Laverdure Brittanee(カナダ)
決  勝 ○[負傷棄権、2P1:03(1-0,5-0)]Lazareva Tetyana(ウクライナ)


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