【特集】世界選手権へかける(18)…男子グレコローマン66kg級・藤村義(自衛隊)【2009年9月14日】

(文=樋口郁夫)



 男子の世界選手権代表14選手の中で、高校時代に一度も全国王者になったことがないのが、グレコローマン66kg級の藤村義(自衛隊=左写真)。高校時代のみならず、徳山大時代も全日本大学グレコローマン選手権2位が最高で、学生タイトルは手にできなかった(西日本学生のタイトルは除く)。初めて“全国1位”といえる結果を残したのが、23歳の時にあったユニバーシアード予選。

 全日本チャンピオンの輝いた選手で高校時代に全国大会無冠だった選手は少なくないが、大学でもタイトルを手にできなかった状況からはい上がった選手は珍しい。「年齢的に上にきているので(27歳)、少しずつ前進というのでは遅い。ドーンといかないと。目指すのは優勝ですが、最低でもメダルを取らないと結果を残したとは言えない」と、一気に好成績を残す腹積もりで最後の調整に励んでいる。

■経験不足で臨んだ北京五輪予選。今度は違う!

 開花したのは遅かったが自衛隊へ進んで急成長し、昨年は北京五輪予選の第1戦(イタリア)に抜てきされた。しかし「プレッシャーに襲われ、押しつぶされた」とのことで、実力を出すこともできずに初戦敗退(右写真)。期待にこたえることができなかった。

 やむをえないことかもしれない。この階級(旧63kg級)は2001年から飯室雅規(自衛隊)が独占していた。そのため、2005年から全日本2位、時に3位だった藤村が全日本チームの海外遠征に参加したのは、2番手中心のメンバーで臨んだ2006年アジア選手権(カザフスタン)があるだけだった。

 他に、学生チームで臨んだ2005年のユニバーシアード(トルコ)、社会人チームで臨んだ2007年NYACオープン国際大会(米国)があるが、「日本代表チーム」という肩書き、しかも五輪がかかっている重圧は予想以上に重かった。「経験不足なんだ…、という気持ちがあった?」との問いに、「心のどこかにあったかもしれません」と振り返る。

 今回は違う。昨年12月の全日本選手権で優勝し、名実ともに日本代表の地位を獲得。控えではないメンバーとしてブルガリアとハンガリーへ遠征。5月にアジア選手権(タイ)に出場し、7月にはゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)出場の機会まで得た。

 経験は十分に積ませてもらった。「まだ結果を出せていないけど、これまでの経験をもとに、世界選手権では結果を残さないとなりません」。“瀬戸際”という表現を使う段階ではないが、気持ちは「後がない」という覚悟で臨む世界選手権だ。

■26歳で全日本初制覇…上には上がいて、遅咲き記録でも何でもない

 ハンガリー・カップとアジア選手権はともに3位決定戦まで進みながら、メダルを逃した。「3位決定戦まで残る選手は勝つポイントを知っている。その壁を破らないと、メダルに手は届かない」。それをふまえた具体的な強化の課題は、グラウンドの攻防だった。スタンド戦が1分から1分30秒に変わり、どの選手もスタンドの攻防に力を入れているが、藤村は以前と変わらずにグラウンドの攻防に力を置いて練習してきたそうだ。

 今年の国際大会で、スタンド戦でポイントを取られたのが決め手となって負けた試合は1試合だという。勝負どころのグラウンドで返せず、あるいは守れずに負けた試合の方が多いからだ。逆に考えるなら、ここぞという時のスタンド戦では失点を許さない強さがあるわけで、この長所を最大限に生かしつつ、やってきたグラウンド強化に期待したいところだ。

 最近、大学時代に無冠の状況から五輪選手になった例としては、1984年ロサンゼルス五輪フリースタイル82kg級銀メダルの長島偉之、1996年アトランタ五輪グレコローマン68kg級の三宅靖志などがいる(ともに高校時代は柔道の選手)。長島が全日本選手権で初優勝したのは30歳1ヶ月(初優勝選手の最年長記録)の時であり、三宅は29歳9ヶ月だった。26歳で全日本王者に輝いた藤村は、彼らより3歳以上も若く日本一になった。

 自衛隊と全日本チームで毎日指導を受けている元木康年コーチも、藤村より遅い27歳で全日本選手権初優勝。そして2000年シドニー五輪グレコローマン63kg級の代表(左写真=元木コーチと藤村)へ。元木コーチが若手だった頃に徹底的にしごいた菅芳松・自衛隊コーチ(現日本協会事務局次長)は、29歳5ヶ月の時にグレコローマン57kg級で全日本選手権を初制覇し、1976年モントリオール五輪で4位に入賞している。

 藤村の足跡は、遅咲き記録でも何でもない。その“若さ”の前には無限の可能性が開けている。2012年ロンドン五輪につながる闘いが期待される。

藤村義(ふじむら・つとむ)=自衛隊

 1982年3月28日、山口県生まれ、27歳。山口・田布施農高〜徳山大卒。高校時代は全国大会無冠だったが、徳山大で西日本学生選手権2度優勝。ほかに2003年の全日本大学グレコローマン選手権で2位。

 自衛隊に進み、2005年ユニバーシアード代表、2006年アジア選手権代表と実力をつける。国内では2006年全日本選手権3位、2007年全日本選抜選手権2位など、日本一にあと一歩と迫ったが、手が届かなかった。

 2007年11月にはNYACホリデー・オープンで優勝し、2008年北京五輪予選出場の機会も得たが、手が届かなかった。しかし2008年全日本選手権で初優勝を達成。2009年アジア選手権5位のあと、全日本選抜選手権に優勝して世界選手権の代表権を獲得。174cm。

 ◎藤村義の最近の国際大会成績

 《2007年》

 【NYACオープン国際大会】優勝(16選手出場)
1回戦 ○[2−0(3-0,1-1)]Mark Rial(米国)
2回戦 ○[2−0(1-1,3-0)]Brandon Mcnabb(米国)
準決勝 ○[2−1(1-2,1-1,1-1)]Marcel Cooper(米国)
決 勝 ○[警告]Yesid Alfredo Meneses(コロンビア)

 《2008年》

 【ハンガリー・カップ】
1回戦  BYE
2回戦 ○[2−0(2-1, 6-0=1:00)]Faruk Sahin(米国)
3回戦 ●[0−2(0-3,1-6)]Steeve Guenot(フランス)

 【五輪予選第1戦】19位(31選手出場)
1回戦  BYE
2回戦 ●[1−2(1-@,3-0,0-3)]Tiziano Corriga(イタリア)

 《2009年》

 【ニコラ・ペトロフ国際大会】12位(20選手出場)
1回戦 ●[1−2(TF0-6=1:59,2-0,0-2)]Osman Kose(トルコ)

 【ハンガリー・カップ】5位(25選手出場)
1回戦  ○[2−0(1-0,3-0)]Tomasz Swierk(ポーランド)
2回戦  ○[2−1(0-1,1-0, 2-0)]Mikhail Siamionav (ベラルーシ)
3回戦  ○[フォール、2P=1:57(1-2,F5-0)]清水博之(自衛隊)
準決勝 ●[1−2(2-2,0-4,0-1)]Manuchar Tskhadaia (グルジア)
三決戦 ●[0−2(0-2,0-1)]Ionut Panait (ルマニア)

 【アジア選手権】5位(14選手出場)
1回戦  ○[2−0(2-0,6-0)]AL Marafi Mohamed salah abdelraman(ヨルダン)
2回戦  ○[2−0(3-2,1-0)]Sultan Muktarov(キルギス)
準決勝 ●[1−2(2-3,1-0,5-5)]Eom Hyeok(韓国)
三決戦 ●[0−2(0-1,0-2)]Abdevali Saeid(イラン)

 【ゴールデンGP決勝大会】11位(20選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ●[1−2(0-3,1-0,0-1)]Farid Mansurov(アゼルバイジャン)
敗復戦 ●[1−2(0-3,1-0,0-1)]Lorinjs Tamas(ハンガリー)


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