【特集】世界選手権へかける(17)…男子フリースタイル120kg級・荒木田進謙(専大)【2009年9月13日】

(文=増渕由気子)



 2005年アジア・ジュニア・チャンピオン、2008年世界ジュニア3位と輝かしい成績を引っさげた日本重量級の新エース、男子フリースタイル120s級の荒木田進謙(専大=左写真)がついに世界へ羽ばたく。

 青森・光星学院高時代に2年連続高校三冠王に輝き、2年連続で全日本選手権の決勝に進出。“スーパー高校生”として注目を浴びた。大学でも、1年生で全日本学生選手権を制すなど記録をつくり続けた。

 荒木田の大学の先輩で2001年から全日本のトップに立ち続けた田中章仁(世界選手権3度出場)には及ばず、全日本選手権では“シルバーコレクター”だったが、田中が昨年4月の北京五輪予選第1戦(スイス)を最後に引退すると、6月の全日本選抜選手権と12月の全日本選手権を連覇。今年の全日本選抜選手権も勝って、同級の不動のエースとして世界選手権初出場を決めた。  

■昨年の五輪予選敗退の悔しさが、日本代表としての自覚を呼び込む

 初出場だが、荒木田に浮かれ気分はまったくない。「日本代表になったからには、変な試合はできない」と代表の使命感を肌で感じている。荒木田は昨年5月、北京五輪予選の最終戦(ポーランド)に抜てきされたものの、結果を残せなかった経験がある。その悔しさゆえ、日本代表としての自覚は21歳ながら十分だ。  

 現ナショナルチームの重量級の中で、海外で一番成績を残している荒木田が、世界で勝つために重要としていることがある。「1試合目が重要なんです」。どんな選手がきても、世界ではギリギリのせめぎあいになることは必至。「そのギリギリの試合を落としてしまったら、次はないんです」と荒木田。事実、五輪最終予選では、ブラジル選手に0−2(0-2、0-1)ときん差で敗退(右写真)。海外での実績がないブラジル選手が決勝に進むことはなく、敗者復活戦へまわれなかった。

 重量級に限ったことではないが、体力(スタミナ)に難のある外国選手は、日本選手と対戦すると体力を使い果たしている場合が多い。日本人に競り勝った選手が決勝まで勝ち進む可能性はかなり低い。それだけに「接戦できる選手には絶対勝つ」ということが荒木田のポリシーだ。

 荒木田は「『入賞をしてこないと、アジア大会の派遣はないかも』と周囲に言われます」と、常に表彰台を意識している。5月のアジア選手権(タイ)では敗者復活戦を勝ち抜いて3位入賞を果たし、結果は今シーズンも残しているが、その初戦で韓国のナム・キュンジン(アジア・ジュニア5位)に敗退した悔しさが今でも脳裏をよぎる。 「信じたくなかったんですが、あの韓国選手は、去年のアジア・ジュニア選手権で相沢優人(全日本2位=日大3年)に負けてるんですよ。しかもフォール負け」。後輩が白星を挙げた選手に、自分はストレート負けの完敗を喫してしまった悔しさを、初の世界選手権でぶつけるつもりだ。

■ライバルはアジア圏。モンゴル、韓国には絶対負けたくない!

 北京五輪は軽量級3階級の出場にとどまった日本フリースタイル陣。重量級は世界とアジアの壁に阻まれた。2012年ロンドン五輪出場を狙うためには、世界選手権でシングルナンバーやアジアで1位になる実力をつける必要がある(左写真=全日本合宿で練習する荒木田)

 「カザフスタン、インド、イランあたりは、2011年の世界選手権で五輪枠を獲得できると思います」と予想しており、大陸選手権の1枠を争う時のライバルは「モンゴル、中国、韓国だと思っています」と分析している。

 五輪出場へのボーダーに“韓国”を挙げているからこそ、アジア選手権でキムに負けた時は落ち込んだ。また、アジアの中で荒木田が一番対抗心を燃やすのが、モンゴルだ。「モンゴルは、日本人選手にタイプが似ている。粘り強くて、バテない」。同スタイルの強豪には「絶対に負けたくない」と、きっぱり言い切った。

 ロンドン五輪の道のりは“打倒アジア”が裏テーマだ。アジア圏で上位に食い込んでいれば、五輪はぐっと近くなる。その手始めとなる今大会。荒木田は、“アジアの顔”として世界デビューを果たせるか。

荒木田進謙(あらきだ・のぶよし)=専大

 1988年3月26日、青森県生まれ、21歳。青森・八戸クラブ出身。青森・光星学院高卒。高校時代の2004・05年に2年連続で高校三冠王を獲得するとともに、2年連続で全日本選手権2位。

 専大に進み、1年生の時(2006年)にJOC杯ジュニアオリンピック、全日本学生選手権、全日本大学選手権と国体の学生タイトルを総なめにするとともに、アジア・ジュニア選手権で優勝。2007年は故障で戦列を離れたが、12月の全日本選手権で復帰し2位。

 2008年はJOC杯ジュニアオリンピックで優勝し、世界ジュニア選手権で銅メダル獲得。同年の全日本選抜選手権、全日本選手権でいずれも初優勝。2009年のアジア選手権で銅メダル。その後の全日本選抜選手権で勝って、世界選手権出場を決めた。180cm。

 ◎荒木田進謙の最近の国際大会成績

 《2008年》

 【アジア選手権】7位(8選手出場)
1回戦 ●[0−2(2-3,TF0-6=1:02)]Chuluunbat Jargalsaikhan(モンゴル)

 【五輪予選第1戦】17位(19選手出場)
1回戦  BYE
2回戦 ●[0−2(0-2, 0-1)]Antoine Jaoude(ブラジル)

 【世界ジュニア選手権】3位(18選手出場)
1回戦  BYE
2回戦 ○[2−1(0-2,2-2,2-0)]Mustafa Cebeci(トルコ)
3回戦 ○[2−1(1-2,5-2,5-0)]Vyacheslav Muzaev(ウクライナ)
準決勝 ●[フォール、2P(0-3,0-7)]Soslan Gagloev(ロシア)
三決戦 ○[2−1(0-2,4-1,3-1)]Jack Clayton(米国)

 《2009年》

 【デーブ・シュルツ国際大会】5位(6選手出場)
リーグ1回戦 ●[1−2(0-3,1-1,1-4)]Nick Matuhin(ドイツ)
リーグ2回戦 ●[0−2(0-2,0-3)]Rajiv Tomar(インド)
リーグ3回戦 ●[0−2(0-1,0-2)]Valery Bedoev(ロシア)
リーグ4回戦 ○[フォール]Brad Peters(米国)
リーグ5回戦 ●[フォール]Jamie Cox(カナダ)

 【アジア選手権】3位(9選手出場)
1回戦  ●[0−2(1-5,1-5)]Nam Kyung-Jin(韓国)
敗復戦 ○[2−0(1-0,3-1)]Sahah Mahammad(イラク)
三決戦 ○[フォール、1P(F6-2)]Hei Yisahabei(中国)


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