【特集】世界選手権へかける(16)…女子67kg級・井上佳子(中京女大)【2009年9月12日】
(文=樋口郁夫)
米国レスリング協会ホームページの世界選手権プレビュー(予想)に「力強い日本の中で、ちょっと弱点の階級」(a bit of a weak spot
for the powerful Japanese)と評された女子67kg級。確かに、68kg級時代を含めて11年間で金メダルは1個もなく、これは7階級の中で67kg級だけだ。
しかし2006年に坂本襟が銅メダルを取ったあと、昨年(東京)は新海真美が銀メダルを獲得。明るい兆しはある。その階級に挑むのが、2年前の世界選手権(アゼルバイジャン)に出場して5位に入った井上佳子(中京女大=左写真)。「おととしの3位決定戦で負けた悔しさは、今も残っています。『メダルを取る』じゃなく、『金メダルを取る』という気持ちで臨みます」と話し、気合十分で2度目の世界選手権に挑む。
■壁は世界チャンピオンのマルティン・デュグライナー(カナダ)と中国
19歳で出場した2007年の時は、4月のジャパンビバレッジクイーンズカップで敗れ、新海とのプレーオフに勝った末の世界選手権初出場だった。プレーオフにもつれた末の代表兼獲得に、「それで満足した面があった。メダルを取るつもりではいたが、何が何でも金メダル、という気持ちはなかった」と振り返る。その前年に世界ジュニア選手権で優勝していたが、それほどの選手であっても、シニアの日本代表は別物なのだろう。今回はその反省を生かして闘う。
今年の67kg級は、昨年の世界チャンピオンであり、63kg級で出場した北京五輪で伊調馨を瀬戸際まで追い詰めたマルティン・デュグライナー(カナダ=右写真)が首ひとつ飛び抜けている状況。昨年の世界選手権では新海が0−2(0-4,1-4)で敗れている。
しかし、そのまま自分に置き換えるつもりはない。昨年の世界選手権のみならず、いろんな国際大会でのデュグライナーの試合をビデオで見て研究している。胸中に必勝パターンを描いている様子で、「どの選手も、必ずやりにくい相手はいると思います」と話し、そのやりにくい闘いを仕掛けたいようだ。「この選手に勝たないと、金メダルはありえません」と最大の標的ははっきりしている。
しかし、もう一人、中国選手にも分が悪いというデータがある。2007年のワールドカップ(ロシア)と世界選手権(アゼルバイジャン)、今年のワールドカップ(中国)とアジア選手権(タイ)の4大会で、相手選手は別だが、いずれも中国選手に苦杯を喫している。今年のアジア選手権準決勝では、マ・ヤンに第1ピリオドにクリンチの攻撃権を得たのに失敗し、1−2で負けて“過去”を払しょくできなかった。
第2ピリオドはタックルを決めて逆転勝ちするなど、どうしようもない苦手意識を持っているわけではない。「その中国選手が世界選手権にエントリーしています。今度は絶対に勝ちます」。世界チャンピオン以外にも闘志を燃やしてくれる材料はある。それがいい方向に出れば、“日本の弱点”という汚名返上が実現するだろう。
■失敗に終わったが、59kg級への挑戦が生かされるか?
2008年に国際大会の出場がないのは、67kg級から59kg級への階級ダウンを試みたからだ(JOCジュニアオリンピックは63kg級)。自らの体格からして、世界で勝つためにいいと思って挑んだのだろうが、結果として国内で勝てず、1年もせずに67kg級に戻した。
「減量の影響が予想以上でした。減量自体はできても、試合になると動けなかった」。ほろ苦い挑戦となってしまったが、神様は積極的に挑んで失敗した選手を見捨てることはしまい。この経験が今後に役立つ日が来ることだろう。
今年の全日本チームは積極的な海外遠征を実行しており、6月と7月に欧州遠征をこなした。昨年国際大会に1度も参加しなかった井上だけに絶好の機会だったが、大学の授業の関係で参加できなかった。学生なので当然のこととはいえ、貴重なチャンスを逃してしまってちょっぴり残念そう。その分、チームと全日本での練習で埋めてきたという自負はある(左写真=吉田栄勝コーチとスパーリングする井上)。
2012年ロンドン五輪の時にどの階級で挑むかなどは、女子が7階級実施されるという可能性も出てきて、現段階では全く決めていない。今頭の中にあるのは、67kg級で世界チャンピオンになることだけ。「メダルという気持ちはありません。あくまでも金メダルを取りにいきます」。2年前の反省を生かしての必死の闘いが期待できそうだ。
井上佳子(いのうえ・よしこ)=中京女大 1988年4月26日、山口県生まれ。チャレンジ出身。21歳。愛知・至学館高卒。2004・05年に全国高校女子選手権優勝。2005年はアジア・カデット選手権でも優勝した。2006年はJOC杯ジュニア選手権で勝ち、世界ジュニア選手権で優勝。全日本選手権でも初優勝した。 2007年はジャパンビバレッジ・クイーンズカップで2位となったが、プレーオフに勝って世界選手権に出場し5位に入賞。その後、59kg級に落としたが結果を出せず、67kg級に戻して08年全日本選手権で2度目の優勝。 2009年3月のワールドカップに出場のあと、全日本女子選手権に勝って世界選手権出場を決めた。その後のアジア選手権では3位。160cm。 |
◎井上佳子の最近の国際大会成績
《2007年》
【ワールドカップ(団体戦)】=個人順位4位
予選1回戦 ○[2−0(1-1,2-0)]Iryna Tsyrkevich (ベラルーシ)
予選2回戦 ○[2−0(1-0,1-0)]Maria Mueller (ドイツ)
決 勝 ●[0−2(0-2,0-1)]Zhang Fengliu (中国)
【世界選手権】=5位(17選手出場)
1回戦 BYE
2回戦 ○[フォール、2P0:57(0-1=2:08,F3-2)]Yoon So-young(韓国)
3回戦 ●[0−2(0-1,2-3)]Jing Ruixue(中国)
敗復戦 ○[2−0(3-0,4-0)]Krisitine Corina(ラトビア)
三決戦 ●[1−2(0-1,@L-1,0-1)]Katie Downing(米国)
《2009年》
【ワールドカップ(団体戦)】=個人順位5位
予選1回戦 ●[0−2(0-1,0-1)]Qin Xiaoqing(秦暁慶=中国)
予選2回戦 ●[1−2(2-1,0-1=2:04,1-3)]KHILKO Volha(ベラルーシ)
予選3回戦 ○[2−0(1-0,1-0)]Gray Adeline(米国)
三位決定戦 ○[2−0(1-0,=2:03,1-0)]Viktoria Mlynarska(ウクライナ)
【アジア選手権】=3位(7選手出場)
1回戦 ○[2−0(2-0,2-0)]Jakhar Geetika(インド)
準決勝 ●[1−2(0-1,2-1,0-1)]Ma Yan(中国)
三決戦 ○[2−0(6-0,1-0)]Kim Ji-eun(韓国)