【特集】世界選手権へかける(7)…男子グレコローマン74kg級・鶴巻宰(自衛隊)【2009年8月31日】

(文=保高幸子)



 今年の男子グレコローマン世界選手権代表チームの中で、最も古くから国際大会で活躍しているのが74kg級の鶴巻宰(自衛隊=左写真)だ。2004年にグレコローマンで史上6位となる「20歳6ヶ月3日」で全日本チャンピオンとなり、翌年のアジア選手権3位などを経て、2007年に世界選手権に出場した。

 昨年の北京五輪出場は逃してしまったが、同年の全日本選手権で優勝。2012年ロンドン五輪へ向けてのスタートは全日本チームのメンバーとして迎えることができ、世界選手権のマットにも立つことになった。

■獲った国際大会のメダルは7つ!……だが、すべて銅メダル

 もっとも、今回の世界選手権はプレーオフを経てのギリギリの出場権獲得となった。6月の明治乳業杯全日本選手権の決勝で金久保武大(日体大大学院)に黒星を喫してしまった。「決勝では1度もグラウンドで攻めることができなかったですね…」。プレーオフは一転してスタンドでの闘いを捨てて臨んだそうで、「絶対に権利を勝ち取る自信がありましたよ。」ときっぱり。

 北京五輪への出場は逃したが、その北京でチャンピオンになったマヌチャ・クビルケリア(グルジア)には、五輪の約2年5ヶ月前に2−0(TF8-0,3-0)のストレートで勝っている選手だった。世界選手権初出場となった2007年大会(アゼルバイジャン)でもロシアのエフゲニー・ポポを破るなど(右写真)、これまでグレコローマン・チームの若手として常に期待は高かった。

 しかし国際大会で獲得した7つのメダルはすべてブロンズ(銅)。「準決勝になると気負いすぎてしまうんです。そこで負けてしまう。でも、敗者復活にまわると吹っ切れて力が出せるんです」

 周りから「銅メダルコレクター」と言われて、いい気持ちはしない。だが、振り返ってみると、小中学校でやっていた柔道でも万年2位だったという。高校3年で全国高校グレコローマン選手権の王者になるまでタイトルとは縁がなかった。期待され、それに応えようとしすぎて空回りしていたこともあった。「コーチに、あいつは勝てる相手だ! と言われると負けてしまい、そうでない相手には勝つパターンが多いですね。期待されると弱いんです…」

■「1試合1試合をしっかり闘えば、おのずと優勝にたどり着く」

 2007年に初出場を果たした世界選手権でもその悪い癖がでてしまった。強豪のロシアに勝ったあと、次の試合では実力は劣ると思われるハンガリー選手に敗れた。五輪の出場枠がかかっていたため、気負いすぎてしまった面もあったと振り返る。しかし、五輪がかかわってこない今回は違う気持ちで臨める。

 「金メダルを獲りたいという気持ちはあります。ただ、最近は目標を金メダルそのものにするとうまくいかないんじゃないかな、と思うようになりました。相手や決勝などという条件にまどわされず、1試合1試合をしっかり闘えば、おのずと優勝にたどり着きます。自分の世界に入り、集中力を高めれば、どんな試合でも勝てると思います。2007年は結果を残すことができませんでしたが、今年は…。いけると思います!」

 コーション(警告)を取られて、その1失点で負けることも多いという反省をいかし、同じ失敗をしないよう心がけているが、ひとつ心配ごとがあるとすれば首の故障。7月の初めから思い切った練習ができていないという。

 しかし昨年のゴールデンGP決勝大会に出場した時は、もっとひどい故障を抱え、マット練習を一切あきらめ、サウナだけで体重を落として、それでも3位という好成績を残した。これまでの練習で築き上げたものは小さくない。

 「新生グレコローマン・チームでは、古株としてリーダー格でしょう?」と聞くと、本人は「いえいえ! 長谷川恒平の方がいい色のメダルを獲っていますし、藤村選手は年上ですからね。ぼくは平社員ですよ」と謙そんする。それでもチームの半分以上が初出場という新チームを鶴巻が引っ張っていくことは間違いない。

 新婚ホヤホヤで、世界選手権から帰った頃に第一子が生まれる予定。「子供の首に、金メダルをかけたいですね!」と意気込みは強い。グレコローマン・チームの“平社員”は、自己主張こそ控えめだが、最終日にきっといい仕事をしてくれるだろう。(左写真=生まれてくる子供のためにも奮戦が期待される鶴巻)

鶴巻宰(つるまき・つかさ)=自衛隊

 1984年5月19日、山形県生まれ、25歳。山形・米沢工高〜国士大卒。高校時代の2002年に全国高校グレコローマン選手権と国体グレコで優勝し、全日本選手権4位へ。国士大へ進み、03年は全日本大学グレコローマン選手権の1年生王者へ。2004年は2階級にまたがって学生二冠を制し、全日本選手権で優勝。05年はアジア選手権3位、ユニバーシアード3位など力をつけた。

 07年全日本選抜選手権とプレーオフで全日本王者の菅太一を破り、世界選手権に初出場。07年は全日本王者を逃し、北京五輪予選出場の機会をもらったが生かせなかった。同年全日本選手権で優勝。2009年の全日本選抜選手権決勝で金久保武大に敗れたものの、プレーオフで勝って世界選手権出場権を獲得。181cm。

 ◎鶴巻宰の最近の主な国際大会成績

 《2007年》

 【ニコラ・ペトロフ国際大会】5位(19選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[2−0(1L-1,3-1)]Bedel Umid(トルコ)
3回戦  ●[1−2(0-4,3-1,1-4)]Evgeny Popov(ロシア)
敗復戦 ○[2−0(3-0,3-0)]Goran Bulatovic (モンテネグロ)
三決戦 ●[0−2(0-6,3-0)]Malmut Altay(トルコ)

 【世界選手権】13位(54選手出場)
1回戦 ○[2−1(3-0,3-4,@L-1)] Ayet Ikram Zied(チュニジア)
2回戦 ○[2−1(0-2,1L-1,1L-1)] Evgeny Popov(ロシア)
3回戦 ●[0−2(3-6,3-1,1-1L)] Peter Bacsi(ハンガリー)

 《2008年》

 【ハンガリー・カップ】3位(34選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[負傷棄権、2P1:57(2-1,2-1)]Krzysztof Kowalski(ポーランド)
3回戦  ○[2−0(3-0,A-2)]R3 - df. Ari Harkanen(フィンランド)
4回戦  ●[1−2(3-0,0-3,1-3)]Aleh Michalovich(ベラルーシ)
敗復戦 ○[2−0(3-1,@-1)]Christoph Guenot(フランス)
三決戦 ○[2−1(3-0, 1-@, @-1)]Julian Kwit(ポーランド)

 【五輪予選第1戦】22位(36選手出場)
1回戦 ●[1−2(0-3,3-0,1-3)]Jure Kuhar(スロベニア)

 【五輪予選第2戦】10位(27選手出場)
1回戦 ○[2−0(2-0,5-0)]Graham Keitani(ミクロネシア)
2回戦 ○[2−1(0-3,2-0,@L-1)]Mohammad Babulfath(スウェーデン)
3回戦 ●[0−2(0-3,0-5)]Arsen Julfalakyan(アルメニア)

 【ゴールデンGP決勝大会】3位(11選手出場)
1回戦  ○[2−0(2-1,1-1)]Samed Chopsiyev(アゼルバイジャン)
2回戦  ○[2−1(1-1,4-2,1-1)]Rafiq Huseynov(アゼルバイジャン)
準決勝 ●[1−1(1-1,1-1,0-5)]Ilgar Abdulov(アゼルバイジャン)
三決戦 ○[フォール、1P(4-0)]Ramazan Shahin(トルコ)

 《2009年》

 【ニコラ・ペトロフ国際大会】3位(19選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[2−1(0-1,1-0,1-0)]金久保武大(日体大) 
3回戦  ○[2−0(1-0,3-0)]Andy Bisek(米国)
準決勝 ●[1−2(2-0,0-2,0-2)]Sheref Tufeng(トルコ)
三決戦 ○[2−0(5-2,1-0)]Ionel Puscasu(ルーマニア) 

 【ハンガリー・カップ】12位(25選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[2−1(0-1,2-0,6-1)]Jake Fisher(米国)
3回戦  ●[0−2(0-2,0-2)]Alexander Kikinov(ベラルーシ)
敗復戦 ●[0−2(0-2,0-1)]Farid Mansurov(アゼルバイジャン)

 【アジア選手権】3位(13選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[2−0(3-0,6-0)]Nguyen Van chung(ベトナム)
準決勝 ●[1−2(0-1,1-0,1-1)]Kang Hee-bok(韓国)
三決戦 ○[2−0(1-0,6-0)]Dauletgeldi Kadyrov(トルクメニスタン)


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