実現するか? 2012年ロンドン五輪での女子7階級実施…FILAの動きが活発化【2009年9月1日】

(取材・文=樋口郁夫)



 2012年ロンドン五輪で、女子の実施階級を現在の4階級から7階級にするべく、国際レスリング連盟(FILA)の動きが活発化してきた。

 FILAの副会長でもある日本協会の福田富昭会長は「FILAは、男子の各階級の参加選手を1〜2人、女子4階級の参加選手を2人ずつ減らすことで、総枠を現在の334選手のままで男女21階級を実施する方向で動いている」と説明。国際オリンピック委員会(IOC)から内諾を得ているとのことで、世界選手権の開幕前日(9月20日)のFILA幹部会にて詳細を決めてIOCに提出。IOCの決定を待つ状況だという。

 FILAは、2001年9月にIOCがレスリング女子の採用を決め、2004年アテネ五輪で女子4階級を実施したあと、一貫して「7階級実施」をIOCに要望してきた。2005年10月のIOC理事会で、2008年北京五輪での女子の実施階級も「4階級」と決まったが、その後も「女子7階級実施」の要望を継続。2008年北京五輪時のFILA総会で、米国代表から「レスリングに認められている18階級を、男子フリースタイル、男子グレコローマン、女子で6階級ずつにするべきではないか」との意見が出されたが、ラファエル・マルティニティー会長(スイス)が「FILAはあくまでも7階級、7階級、7階級を求めていく」と回答した。

 今年8月13日にドイツ・ベルリンで開かれたIOC理事会は、2016年夏季五輪で追加する2競技をゴルフとラグビー(7人制)に絞り込むとともに、ボクシングで女子を採用することを決めたが、同時にFILAから要望されていた「女子3階級の追加」に対しても回答。「全体の選手数を変えないこと、現在ある種目(階級)にとって代わる条件のもとで認める」と通達した。

 IOCのホームページに記載されている回答は下記の通り。

 The three Federations (FILA, FINA, and UCI respectively) submitted requestsfor new events. The EB informed them that this could happen, especiallyif the new events increase the participation of women at the Games and on condition that they replace events already on the programme. Additionally,current events can be replaced with new ones only if the total number of athletes is maintained.

 《訳》3つの競技団体(レスリング、水泳、自転車)から新しいイベント(種目・階級)の追加要求があった。IOC理事会は「それらの追加イベントは、女子の参加が増えることと、現在実施されているイベントにとって代わる条件のもとで認める」と通達した。さらに、トータルの参加選手数が変わらないことが条件である。

 IOCは2001年9月に、3年後のアテネ五輪でレスリング女子を加えて「男女で18階級」と決定した時、FILAに対して「男子各スタイル7階級、女子4階級が望ましい」と勧告してきた。今回は、各スタイルの実施階級にはIOCは関知しないとの見解を示したことになり、トータルの参加選手内での変更であるなら、FILAの意思によって女子の階級増が認められるという内容になっている。

 しかし、「on condition that they replace events already on the programme」(現在実施されているイベントにとって代わる条件のもとで)とも記載されており、女子を3階級加えるには、男子を3階級削る必要があると解釈される。ところが、この通達のあとFILAがIOCと再度話し合い、「トータルの参加選手数が同じであるなら、階級を3階級増やしてもいい」との内容で合意に達したという。

 北京五輪でレスリングに与えられた選手枠は344選手(男子19選手×14階級=266選手、女子16選手×4階級=64選手、オセアニア7選手、ワイルドカード=主催者推薦枠=7選手)。例えば男子を各階級17選手にした場合、14階級での選手数は238選手で、ワイルドカードが8選手に与えられるとして246選手。女子に割り振られる選手数は98選手となり、1階級14選手で実施すれば計344選手で実施できる。

 慎重論もある。IOCのジャック・ロゲ会長は就任以来、五輪の肥大化抑止のため、実施される競技の上限を「28競技」、種目(金メダルの数)の上限を「300」(北京五輪は302)、参加選手の上限を「1万500人」(北京五輪は1万1000人を超えた)としており、現在でもこの枠を遵守する考えを持っているという(日本オリンピック委員会の広報委員も務める共同通信編集委員)。

 ロンドン五輪に向けては、レスリングのほかにも、水泳の自由形を除く各種50mやテニスの混合ダブルスなど17の競技団体から33ものイベント(種目・階級)の追加要望があるそうで、同編集委員は「そのすべてが認められることはありえない」と言う。

 IOCはイベント追加の「キー」として、普及、男女平等、若者へのアピール力などを掲げており、レスリング女子がこれに該当すると判断されれば、階級追加の可能性はある。FILAが「1階級あたりの男子の出場選手数を減らして女子3階級を採用する」と具体的に動き出そうとしているからには、かなりの確証があると考えられるが、イスラム圏など女子を実施していない国等、FILA内部から反対の声があがる可能性は?

 最終的に決めるのはIOC。種目採用の権限は理事会にあるため、最終的には12月9〜11日のIOC理事会での決定にゆだねられるだろうが、10月初めのIOC総会前後のプログラム委員会で実質的に決定される可能性もある。2016年五輪開催地の行方(10月2日に決定)とともに、大きなヤマ場が訪れる。


 ◎オリンピックの「女子7階級実施」への闘い

◆2001年9月19日 IOC理事会でレスリング女子の五輪種目採用を決めた。アテネ五輪では、男女合わせて18階級が実施されることになり、その内訳はIOCとFILAの話し合いにゆだねられるが、IOCは「男子14階級、女子4階級が望ましい」とした。

◆2001年10月10日 FILA理事会で、IOCが決定したアテネ五輪での女子採用を正式に受け入れ、階級も提案のあった男子14階級(各スタイル7階級)女子4階級に変更することを決めた。

◆2003年7月 IOCのフェリ五輪統括部長に本ホームページ英語執筆のビル・メイ氏が単独インタビュー。「2008年北京五輪のレスリングのメダル数は、来年のアテネ五輪と同じ18個の予定で、FILAに通達した。しかし2012年五輪では、メダルの数を削減してもらわなければならない。女子を増やすなら、男子の階級を減らすことが必要になってくる」と発言。レスリングはIOCの中で縮小の対象になっている競技であることを明らかにした。

◆2005年4月 当初は実施されない予定だった同年のユニバーシアードに、FILAの粘り強い交渉によって女子の実施が決定。ラファエル・マルティニティ会長は、五輪での女子採用の交渉を有利に運ぶため、各国に対して「ベストのメンバーで最大の選手数を派遣してほしい」と要請。

◆2005年9月25日 FILAのラファエル・マルティニティー会長が本ホームページの質問に対し、「FILAは女子の階級数を7階級にするようにIOCに要望している。まだ回答はないものの、(北京五輪は)4階級が最終決定ではない。10月にIOCが決めると思う」と話した。「たとえ北京五輪での7階級が実現しなくても、2012年ロンドン五輪へ向けて7階級実施を要望していく」とも。

◆2005年10月1日 世界選手権に来場したIOCのジャック・ロゲ会長が記者会見。朝日新聞・柴田真宏記者の北京五輪の女子の階級数についての質問に対し、「3週間後にローザンヌで行なわれるIOC理事会で決める。委員は15人いる。民主的な手続きで決まり、私の一存では決められない」と話した。

◆2005年10月27日 IOC理事会で、FILAが申請していた2008年北京五輪のレスリング女子7階級実施の要望が却下される。

◆2006年9月29日 FILAのラファエル・マルティニティー会長が本ホームページの質問に対し、「FILAは常にIOCに対して女子7階級の実施を求めていますが、北京五輪では女子4階級と決定されてしまい、ロンドン五輪も基本的には同じと伝えられている。しかし、まだ決定ではない。今後も交渉を続けたい。アテネ五輪のあと、3位を各階級2人とし、IOCにも認めてもらって北京五輪からも実施する。五輪の肥大化抑制を打ち出しているIOCの中では至難のことだった。これを実現した私たちの努力を認めてほしい。世界の女子の7階級実施も、粘り強く交渉を続けます」と発言。

◆2008年8月11日 北京五輪期間中のFILA総会で、米国代表から「レスリングに認められている18階級を、男子フリースタイル、男子グレコローマン、女子で6階級ずつにするべきではないか」との意見が出されたが、ラファエル・マルティニティー会長(スイス)は「FILAはあくまでも7階級、7階級、7階級を求めていく」と回答


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