【特集】世界選手権へかける(5)…男子グレコローマン60kg級・松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)【2009年8月29日】

(文=増渕由気子)



 21世紀に入ってから、世界から最も注目された日本の男子選手はグレコローマン60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障)だろう。2000年シドニー五輪から3大会連続で五輪出場を果たし、2006年にはアジア大会チャンピオンへ。2007年には世界2位の実績を残した。今年の世界選手権では、その笹本を倒したニューフェース、松本隆太郎(群馬ヤクルト販売=左写真)が同級に初出場、世界の強豪に挑戦する。

■昨年の全日本選手権は2回戦敗退の不覚!

 笹本が昨夏北京五輪を最後に60kg級を一時的に卒業することが明らかになると、“ポスト笹本”に真っ先に挙がったのが松本だった。大学2年生の2005年に学生二冠王(全日本学生選手権、全日本大学グレコローマン選手権)を制覇。2006年には全日本選手権2位へ。2007年にも全日本の2大会(全日本選抜選手権、全日本選手権)の決勝で笹本と競い、ともに1ピリオドを奪うほど実力を肉薄させた(右写真:2007年全日本選手権で世界2位の笹本にガッツレンチを決める松本=青)

 笹本の抜けた昨年12月の天皇杯全日本選手権では、優勝候補の最右翼だったが、2回戦で城戸義貴(自衛隊)にストレート負け。その年の最初に踏み切った右手首の術後の経過の影響かと思われたが、「9月の大分国体で優勝していますし、気の持ちようです」と敗因をサバサバ語った。

 「海外の経験を積みたい」という希望が強かったが、全日本選手権での敗北が響き、今年は冬の欧州遠征はもちろん、5月のアジア選手権(タイ)も代表落ち。「(同期の)みんなが遠征に行ってるのに、悔しかった」と日本に残留した。フリースタイル84kg級では弟の篤史(日体大)が、全日本王者の小幡邦彦選手の辞退によって、アジア選手権に出場した。そのことも、松本の悔しさを倍増させた。

 だが、日体大時代の恩師、藤本英男部長の「(遠征に参加して)相手の研究をしても意味がないんだよ」との言葉を信じて復活に燃えた。まずは自分の弱点を克服することが先決。「グラウンドの攻防をしっかりし、徹底して練習していました」。その結果、6月の全日本選抜選手権では2回戦で全日本王者の佐藤亮太(日体大)を破り、決勝では60kg級に復帰してきた笹本をも破って文句なしの優勝。佐藤とのプレーオフも難なく制し、世界選手権出初場を決めた。

■2年4ヶ月ぶりの国際大会は“腕試しの大会”、目標はロンドン五輪!

 8月は日体大の草津合宿に合流してたっぷりと汗を流した(左写真)。群馬が地元の松本にとって、高校生の時から毎年参加している“虎の穴合宿”。今年はナショナルチームの夏季遠征がなかったこともあって、じっくりと自分のペースで練習が積めた。

 日本のグレコローマン60kg級は、笹本以外は若手が多く、北京五輪を境に引退した大物選手はいない。2012年ロンドン五輪の国内選考は、北京五輪への道とレベルが変わるどころか、一段とハイレベルになるだろう。そのために「(世界選手権で)ひとつ勝っておけば、(国内での闘いが)有利に進められる」と、ロンドン五輪へ向けてスタートダッシュを図る。

 松本にとって海外遠征は、2007年5月のアジア選手権(キルギス)以来で、2年4ヶ月ぶりの海外遠征試合。そのため、今回は結果にこだわらず、あくまでも世界での腕試しが一番の目標だ。「もちろん、メダルとか取れたらうれしいですけど、最終的な目標はロンドン五輪なので、今年勝っても、(五輪予選となる)2011年世界選手権で負けたら意味がない」と、通過点の姿勢で臨む。

 「スタンドでひとつ(ポイントを)取るレスリングをしたい。そうすればグラウンドで返せなくてもいいし、相手もバテるので勝てる」と松本。日本が誇る階級のひとつ、グレコローマン60kg級は松本隆太郎に託された。

松本隆太郎(まつもと・りゅうたろう)=群馬ヤクルト販売

 1986年1月16日、群馬県生まれ、23歳。群馬・館林高〜日体大卒。高校時代の2003年に全国高校生グレコローマン選手権と国体グレコローマンで優勝。日体大に進み、2年生の2005年に学生二冠王(全日本学生選手権、全日本大学グレコローマン選手権)、国体2位など。

 翌2006年は学生タイトルに見離されたが、世界ジュニア選手権7位、全日本選手権2位などの成績を残した。2007年はアジア選手権に出場して5位に入賞するとともに、全日本学生選手権と国体で優勝。全日本選手権でも2位へ。

 右手首の手術で戦列を離れたあと、2008年国体で復活優勝。同年の全日本選手権は不覚を喫したが、2009年全日本選抜選手権で優勝した。168cm。

 ◎松本隆太郎の最近の国際大会成績

 《2007年》

 【アクロポリス国際大会】
1回戦  BYE
2回戦 ●[0−2(0-3,0-3)]Hristos Gikas(ギリシャ)

 【ハンガリー・グランプリ】
1回戦  BYE
2回戦 ●[1−2(1-2,1L-1,0-3)]Hugo Passos(ポルトガル)

 【アジア選手権】5位(10選手出場)
1回戦   BYE
2回戦  ○[2−1(TF0-5=1:42,6-1,4-3)]Kamol Khalmatov(ウズベキスタン)
準決勝 ●[0−2(3-4,TF0-6=1:45)]Moon Ho Seon(韓国)
三決戦 ●[0−2(0-3,0-3)]Sheng Jiang(中国=盛江)


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