【特集】“高校女子レスリング”の東日本の横綱へ…東京・安部学院が4階級制覇【2009年8月18日】

(文・撮影=増渕由気子)



 第14回全国高校女子選手権が8月17日、千葉・佐倉市民体育館で行われ、安部学院(右写真)が10階級中6階級で決勝に進出。そのうちの52s級の平野遥香、60s級の村田夏南子、65s級の歌田圭純、70s級の橋本千紘が優勝し、4階級を制覇した。

 伊調馨(現ALSOK綜合警備保障)や西牧未央(現中京女大)など五輪&世界王者や世界で活躍する選手を多く輩出している愛知・至学館には、幼少の頃からレスリングに親しみ、数多くのタイトルを取ってきたエリート選手が多数在籍する。「安部学院はタイトルを取ったことがない選手がほとんどですよ」と話すのは、同校の成富利弘監督。その”雑草軍団”がやっと花咲いた。

■2連覇を目指す田中亜里沙(埼玉栄)を平野主将が撃破

 真骨頂だったのは、52s級の平野主将(左写真)だ。小学校1年生の時からレスリングは始め、レスリング歴は長いほうだが、獲得したタイトルはなし。そんなノーマークの平野が52s級のトーナメントで台風の目となった。初戦をテクニカルフォールでストレート勝ちをおさめると、2回戦、3回戦とフォール勝ち。

 準決勝の相手は昨年のチャンピオンの田中亜里沙(埼玉・埼玉栄)。田中は3月のクリッパン女子国際大会(スウェーデン)で優勝し、4月の全日本女子選手権カデットの部で2連覇、JOC杯ジュニアオリンピック・カデットの部も勝って今季の3冠王に王手をかけていた。

 その田中を逆転による2−1で下す殊勲。“大物食い”を見せた平野に、もはや敵なし。決勝戦では丸山寛奈(青森・青森商)に何もさせず、2−0で勝って初タイトルを手にした。

 急成長を遂げた平野を変えたのは、”主将”という肩書き。「ずっと先輩に甘えていました。キャプテンになって自覚がでてきました」という平野。V2を狙った大本命の田中に関しても「負ける気がしなかったんです」と精神面の成長が勝利をもたらしたようだ。

■味の素トレセンから自転車で15分という好立地が急成長のカギ

 至学館(前中京女大附)と並んで歴史の長い安部学院が今季急成長したのには理由がある。安部学院は東京の北区王子にあり、ナショナルチームの練習拠点となる味の素トレセンまで自転車で15分の距離。「学校の授業後にナショナルチームの練習に参加することも可能」という環境のよさが強化につながっているようだ。

 ナショナルチームのトップ選手と練習を積むことで、無冠の選手でもエリート選手に名前負けすることもなくなり、平野主将のように強豪選手と対等に戦うことができるようになった。また、安部学院にはジャパンビバレッジ所属の選手が練習でよく顔を出す。今年からは、JWA(JOCアカデミー)所属の村田が入学してきた。

 60kg級の村田は「吉田沙保里選手にあこがれています」と北京五輪で連覇した吉田の姿を見て柔道から転向してきた選手だ。レスリングを始めてわずか半年だが、柔道仕込みの大技を連発して決勝戦ではフォールで優勝を決めた大物ルーキーだ(右写真)

 実業団の選手、JWAの選手――。いろんな環境でレスリングに打ち込む選手を、間近で感じることができることが、選手を「わたしも、やればできるのでは」と前向きにさせているようだ。

 成富監督は勝利の要因をもう一つ挙げた。「よく、自発的にミーティングやっているんだよね」。時間を見つけては、平野主将を中心に集合して、話し合いの場を作っている。高校女子には団体戦などはないが、今の安部学院はチーム意識が高い。

 伊調馨、坂本真喜子、西牧未央ら数多くの強豪選手を輩出した至学館に続けとばかりに、安部学院が高校女子レスリングの“東の横綱”として名乗りを挙げた(左写真=決勝進出の選手たち。後列左から70kg級金・橋本千紘、65kg級金・歌田圭純、46kg級銀・鈴木美織、前列左から49kg級銀・竹下栞、52kg級・平野遥香、60kg級・村田夏南子)


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