【特集】パワー一辺倒ではなく、効果的なレスリングを…元コーチのビル・メイ氏の目【2009年8月15日】



 再起を目指す浜口京子(ジャパンビバレッジ)には、何が必要なのか。今大会には、浜口を10代の頃に指導したビル・メイ氏(元日本協会広報委員、元国士舘大コーチ=左写真)がプラハから駆けつけて試合を観戦した。メイ氏は和田貴広・日本協会強化委員(1995年世界2位=国士舘大職)にレスリングの基礎を教え、育てたコーチでもある。今の浜口に必要なことを話してもらった。



 浜口選手の今までの試合は、フィジカル(肉体)のエネルギーをフルに爆発させていく闘い方でした。今回もそんな闘いでした。しかし、もっとも効果的な試合をしなければならないと思いました。ズラテバとの2ピリオド目は完全にばてていました。手の出し方、組み手など研究し、バテないレスリングをやらないと、世界のトップ選手相手に勝ち続けることはできないと思います。

 組み合って力を入れても、試合は先に進みません(右写真)。それはリードしていて、時間稼ぎをする時に役に立つだけです。「力を持っているので、力のレスリング」では通じません。書道に例えるなら、力があるからといって、力強い書き方だけをするわけではありません。柔らかい書き方もしなければ達人とは言えません。それと同じで、レスリングにも力を入れる時と抜く時の使い分けが必要なわけです。

 浜口選手は、もう体力にまかせたレスリングをする年ではないと思います。日本人離れしたパワーで相手を引き落とし、がぶって外無双、そしてバックに回るといった攻撃は、外国の選手の多くが知ってしまっているので通じなくなっています。

■浜口ができる技は、まだまだある!

 連覇している世界チャンピオンは、毎年毎年、技が少しずつ変わっていくものです。そうでないと、研究されてしまい勝ち続けられません。1996年アトランタ五輪を含め世界を8度制したバレンチン・ヨルダノフ(ブルガリア)は、若い時とベテランになった時のレスリングは大きく違いました。ある時に大きく変わったのではありません。年々、少しずつ変わっていき、最後は徹底したカウンター・レスリングの選手になっていました。

 2004年に東京・駒沢体育館で行われたワールドカップの時、浜口選手には片足タックルや一本背負いといった新しい技を見せてもらい、これで攻撃の幅が広がるかな、と思いましたが、その後、世界選手権やオリンピックなどで、それらの技を見たことがありません(私がたまたまそうしたシーンを見ていないだけかもしれませんが…。左写真=試合を観戦するビル・メイ氏)。

 これらの技はどこにいったのでしょうか。できる技はまだまだあると思います。がぶったり、引き落としたりしてバックに回るという攻撃だけでなく、持っている技を実戦で使えるようにしていくことが今後の課題だと思います。それには、いろんなタイプの選手と数多くの練習と試合をすることが必要になってきます。

■いろんな技を出すことで、相手が警戒してくる

 今回闘った相手は「ハマグチは攻めてこない。前に崩してバックに回るだけ」ということが分かっていたようです。タックルに来ないと分かっていたから、自信を持たれてしまっていました。多くの技はいらないと思いますが、いろんな技を出して攻撃しなければ、相手に余裕を持たれてしまいます。

 カナダのコーチは「昔のハマグチは攻撃して試合を支配した。最近のハマグチは攻撃がない」と言っていました。「攻撃しない」ではなく、「攻撃できない」のだと思いますが、多くの選手にそのことを知られてしまっているのが、今回の敗因だと思います。新しい技を出せば、他の選手がそれを見て警戒します。「何が来るかな?」と警戒させるだけでも、試合の流れは変わっていくものです。

 どんなレスリングがいいかは、自分自身が決めることです。ただ、ヨルダノフが晩年にやっていたカウンター・レスリングは、重量級の選手には向いていないと思います。浜口選手にとって最高の技、最高の戦術があると思います。それを見つけるには、多くの経験を積むことです。欧州の国に修行に行き、いろんな国の多くの選手と肌を合わせることもひとつの方法だと思います。

 私の住むチェコは、女子レスリングは強くありませんが、ドイツ、ハンガリー、オーストリア、スウェーデンなどと伝手(つて)がありますので、必要ならいつでも協力したいと思います。(談)



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