【特集】主将の意地で大会唯一の10連勝、春夏制覇の細谷翔太朗(花咲徳栄)が個人戦MVP【2009年8月7日】

(文・撮影=増渕由気子)



 インターハイ個人戦のMVPは、昨年74s級五冠王の北村公平(京都・京都八幡)らを倒して春夏連覇を達成した84s級の細谷翔太朗(埼玉・花咲徳栄)が選ばれた(右写真)

 細谷は3月の風間杯全国高校選抜大会を制し、ずっと壁だったライバル・前年の高校選抜王者の菊池崚(茨城・霞ヶ浦)にも確実に勝てるようになり、あとは王者としての風格を増すだけの夏になるはずだった。7月の上旬にインターハイの組み合わせが発表されると、第1シードの自分の直下に昨年74s級五冠王の北村公平(京都・京都八幡)の名前を発見。「タックルが強烈だし、タックルが切れても、その後の処理がうまい選手。全日本選手権にも出ているし」と北村の強さは認めていた。
 
 菊池には以前よりも楽に勝てるようになった細谷だが、北村参戦により、インターハイに向けての調整はピリピリモードだった。「追い込んで、体力で勝つ」と気合を入れて準備してきた。その北村戦。第1ピリオドは北村のペースで試合が進み、0−5で落としてしまった。「タックル、怖かったですよ」。

■学校対抗戦での激戦で体力は限界だった最終日

 細谷は学校対抗戦で5試合を戦い抜いた。しかも、3回戦以降はすべて重量級勝負という厳しい闘いが続いたあとの個人戦だ。細谷の大会3日目に、“大会初日”を迎えた北村に対しては大きなハンデがあったといっていい。
 
 このハンディを乗り越えて北村にフルラウンド勝負で勝ったものの、最終日を迎えた細谷の体力は限界。「足が動かなかったんです」と、準々決勝からの動きはいまひとつ。サッカーから転向してレスリング歴わずか1年でベスト4に進出してきた赤熊猶弥(福岡・東鷹)にも大苦戦した。しかし、ここも勝ち抜き、栄冠を手にした。
 
 昨年、学校対抗戦と個人戦で10連勝したのは、森下史崇(茨城・霞ヶ浦=当時50kg級)の一人だけだった。今年は細谷がそれをやってのけたが、「辛かったです」と振り返った。その気持ちを支えたのは「主将」という肩書きだ。新チームになって主将という肩書きが、細谷を大きく成長させた。

■甘い気持ちをなくし、「自分に厳しくやってきた」

 「主将って一番強いというイメージがあります。チームでも指示する役割。自分が勝たなかったら、後輩がついてこない。自分が勝たないと(チームに)影響が出るじゃないですか」。6月の関東高校大会で菊池に3連勝したときの細谷のコメントだ。
 
 「自分の先輩たちはすごく強くて、(主将になる前の)去年のインターハイまでは甘えていました」。団体戦の優勝候補だった昨年、決勝で霞ヶ浦に優勝の白星を奪われてしてしまったのは細谷だった。その反省をふまえ、「甘い気持ちをなくして、自分に厳しくしてやってきた」(細谷)。その結果が、チームの大黒柱までに成長。団体戦での悲願はかなわなくても、主将の意地で個人戦を制し、計10試合で黒星を喫しなかった(左写真=決勝で菊池を破った細谷)
 
 「霞ヶ浦っていう名前に名前負けしていた自分がいたんですよ」と振り返った細谷。北村や菊池など超強豪にも横綱相撲が取れるようになった。今年の年間MVPの有力候補だった北村、森下ともにインターハイでは表彰台に乗れない波乱。その中で、苦しいトーナメントを制し、春に続いてタイトルを獲得した細谷が今年の年間MVPの筆頭か―。


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