【特集】両スタイル全日本王者の誇りを胸に全日本チームを応援…平井進悟さん(ALSOK綜合警備保障)【2009年7月15日】

(文・撮影=樋口郁夫)



 7月8〜12日に長野・菅平で行われた男子の全日本合宿の中日(10日)に、昨年前半まで男子グレコローマン55kg級の選手として汗を流していた平井進悟さん(ALSOK総合警備保障=右写真)が差し入れを持って顔を見せた。

 2001年にはフリースタイル58kg級で、2004年にはグレコローマン55kg級で全日本王者に輝いた“両刀使い”。2005年に拓大が東日本学生リーグ戦で3年ぶりに優勝した時には、西口茂樹コーチ(現部長)が「最大の原動力は平井コーチ」として真っ先に胴上げを受けるコーチングスタッフに指名し、指導者としても手腕を発揮した。

■田南部力、豊田雅俊と激闘を展開した現役時代

 昨年6月の明治乳業杯全日本選手権で2位となったあと選手生活を引退し、現在は綜合警備保障の長野支社で一般社員として活躍中。レスリングは、時に地元の高校選手やキッズ選手を教える程度となってしまった。しかし、地元で全日本合宿があれば寸暇を惜しんで駆けつけ、レスリングへの思いは消えていない。

 「最後の明治乳業杯は、もう北京への道はありませんでしたが、けじめをつけるため出場しました」。その時は29歳。体のあちこちにけがをしており、次の五輪を目指す気持ちはなかった。両スタイルの全日本チャンピオンに加え、2005年にはグレコローマンでアジア選手権3位(左写真)に入るなどした現役生活だが、五輪出場の夢はかなわなかった。「悔いがない、ということはない。何の悔いもなくマットを去る選手はいないでしょう。でも、悔いは少ない方だと思います」。

 フリースタイル時代には田南部力(現全日本コーチ=2004年アテネ五輪銅メダリスト)とも世界選手権代表をかけて闘ったこともある。「自分もそれに近いところでできていたんだなあ、と誇らしく感じます」と振り返る。。

 グレコローマンに転向したのは2003年。同級には拓大の先輩でもある豊田雅俊(現全日本コーチ=2004年アテネ五輪代表)の壁があり、五輪にも世界選手権にも出場できなかった。しかし、「豊田さんのおかげで強くなれた。強い先輩に恵まれて、ここまででこれました」と感謝の気持ちの方が強い。現役時代の一番の思い出を聞くと、返ってきたのが「豊田先輩に勝てた試合(2006年全日本選抜選手権決勝=右写真)」という答だった。

■社会人として高評価を得ることが、レスリングのステータスを上げる

 多くのトップ選手と闘うことができ、こうして全日本の合宿に来れば、それらの元ライバル選手が声をかけてくれる。自分の人生に一生残るかけがえのない財産と感じており、悔い以上のものを得た選手生活だった。

 昨年9月から、地元の長野で一般社員として働き始めた。CMで広く知られているとおり、緊急事態に対して現場に急行する仕事などをやっている。選手時代は、そうした仕事は全くしていなかった。「経験どころか知識もなかった。アルバイトで金を稼いだ経験もなかったんですよ。この年になって、初めて(普通に)働いて金を稼ぐ経験をしました」。待遇こそは新入社員とは違うが、仕事に対しては「新入社員と変わらない」と笑う。

 元選手ということに甘える気持ちはない。社員としてしっかり仕事をこなし、高評価を受けることがレスリングの評価を上げることになると思っている。「レスリングをやっていた選手はすごい、と評価されることが大事だと思います」として仕事に全力投球。社会人として評価されることで、レスリング界に恩返ししていきたい気持ちのようだ。

■中央と地元・長野をつなぐパイプ役へ

 「高校教員とかをやっていれば、国体や社会人の大会に出ることもできるでしょう。でも、今の状態で出たら相手にも失礼」と、競技としてのレスリングからはすっぱりと縁を切り、陰から応援している形。長野県の高校に全日本のトップだった人に臨時の指導で来てもらうとか、中央と地元のパイプ役が「自分の役目かな」と話す(左写真=全日本コーチと談笑する平井さん)

 全日本合宿に足を運ぶことを見ても分かる通り、気持ちはレスリングから離れられない。母校・拓大の動向も気になること。今年は平井さんがコーチをやっていた2005年以来のリーグ戦優勝を遂げた。「応援に行きました。母校は帰りたい場所です。まあ、勝ってくれた方が足を運びやすいですから、勝ってほしいです。団体4冠王というのは、リーグ戦の優勝校だけが挑める記録。狙ってほしいです」と期待した。

 マットの上でひたむきに汗を流した人間は、どんな境遇にいてもレスリングから離れられない場合が多い。そんな人達に支えられ、チームJAPANは2012年ロンドン五輪での勝利を目指し、ばく進する。


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