【全日本選抜選手権優勝選手】フリースタイル60kg級・前田翔吾(日体大)【2009年6月22日】

(文=三次敏之、撮影=矢吹建夫)


 フリースタイル60kg級で前田翔吾(日体大)が涙の世界選手権初出場をもぎ取った。決勝戦は昨年の天皇杯全日本選手権と同じ顔合わせとなり、大舘信也(自衛隊)を破った。

 昨年の全日本選手権では、ダークホースの存在からの初優勝を遂げた前田だが、今大会は本命。そんな本命の前田だが、5月のアジア選手権(タイ)では5位に甘んじた。だが高校(愛知・星城高)時代の“師匠”の一人である栄和人・中京女大監督から「国際大会で負けて、また強くなればいい」とアドバイスされ、世界選手権を目指し始める。

 ところが、 思わぬアクシデントが前田の身体を蝕(むしば)んだ。本人は「怖いから精密検査まで受けてないんです」というが、これまで味わったことがない腰痛に見舞われ、アジア選手権直後は、まともな練習ができないまま今大会を迎えた。

 「試合直後の涙は、満足に練習できていなかったので、ホッとして流れてしまった涙です。もっと泣いてしまうかと自分では思っていたのですが」と笑ってみせた。

 万全な状態ではなくても優勝できるというところが、前田の成長の証しではないだろうか。栄和人監督は「12月の全日本選手権の時と比べると精神的にたくましくなった」と褒めた。栄監督の言う精神的な成長とは優勝だけではなく、粘り強さの部分。2回戦で対戦した小田裕之(国士舘大)と前田は相性が良くない。「勝ったことがない」という小田相手に苦戦を強いられたが、試合終了間際に逆転勝利をしてみせた。

 これで前田は吹っ切れたのだろう。決勝では第1ピリオドを先制。第2ピリオドは大舘が両足タックルからのテークダウンで1ポイント先制するが、前田もすかさず反撃。片足タックルを2度決めて2−1とリードし、またもタックルを狙う前田。大舘の足は場外へ流れ、ポイントを加点。大舘に反撃の機会を与えなかった。

 堂々とした試合内容で、全日本選手権に続いて大会を制し、文句なしで世界選手権出場を決めた前田は、インタビュースペースではっきりと口にした。「僕の時代がやってきた!」−。


 ◆前田翔吾の話「昨年末の全日本選手権で優勝して、アジア選手権まであっという間に時間が過ぎていき、腰を痛めてしまい、実はほとんど練習ができなかったんです。小田選手にはずっと勝っていなかったので、勝てて素直にうれしかったです。腰の調子が良くなかったので、今日は(内容はともかく)優勝で合格点です。腰の状態は怖いので精密検査までは受けていません。試合直後の涙はホッとした気持ちから出てしまった涙です。決勝戦前に吉田(沙保里)先輩から『あと1試合だからガンバレ』とゲキを飛ばされました」


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