【特集】環太平洋大から初の日本代表、アジア選手権に大抜擢の伊藤友莉香【2009年4月29日】



 5月2日〜7日まで行われるアジア選手権(タイ・パタヤ)。北京五輪後、男女ともにナショナルチームは大幅に若返っており、新しいスターの出現が望まれる。代表の多くは北京五輪選考時から全日本レベルの大会で上位を占めていた選手で、今回のメンバー入りは順当だったが、女子59kg級は新鋭・伊藤友莉香(環太平洋大=右写真)がアジアの壁に挑む。

■ジュニアを飛び越えシニアで結果を出した超新星

 4月5日に行われた全日本女子選手権の59kg級は、世界V4の正田絢子(網野)に全日本選手権優勝の山名慧(アイシン・エイダブリュ)と昨年のアジア選手権3位の梶田瑞華(中京女大)がどう挑むかが焦点だった。だが、決勝戦で正田の相手に名乗りを挙げたのは、ノーマークだった伊藤だった。

 伊藤は大阪・吹田市民教室〜網野高出身の選手で、正田と同じ経路で育った選手。今年の4月に環太平洋大に進学したばかりの大学1年生だ。昨年はアジア・カデット選手権で優勝。その8ヶ月後にシニア選手たちをも撃破した“昇り竜”だ。創部3年目の環太平洋大に進学したのは、「小学校の先生になるため」。入学早々の調整&試合が続く中、学校生活を送ることで「授業がしんどいです(笑)」とつい本音を出すところが初々しい。

 “若手の育成”をテーマに挙げている栄和人女子強化委員長(中京女大教)は、全日本女子準優勝ながら伊藤の将来性を買い、本来ならアジア選手権代表となるはずだった全日本チャンピオンの山名に代えて伊藤をエントリーした(左写真:栄和人強化委員長の指導を受ける伊藤=左)

 世界ジュニア選手権も未経験の伊藤は、いきなりシニアの国際大会に抜ってきされたことで、「信じられないです」と話す。26日からは全日本女子チームの合宿に参加し最終調整を行ったが、25日にはJOC杯ジュニアオリンピックのマットに立っていた。その理由は「世界ジュニア選手権に行くためです」ときっぱり。「減量もほとんどないので、連戦は大丈夫」と、同世代の大会は休まず参戦する腹積もりで、“アジア代表”の肩書におごっている様子は微塵もなかった。

■JOC杯でも積極的に攻めて優勝

 JOC杯ジュニアオリンピックでも、全日本女子選手権と同じく積極的に攻めて無失点で優勝した。4月から伊藤を預かる環太平洋大の嘉戸洋監督は「攻撃的なところがいい」と評価した。だが、アジア選手権代表は世界女王の正田に勝って得た権利ではないし、世界レベルから見たらまだまだ。嘉戸監督は「直すところなんていっぱいあるよ。世界はそんなに甘くはない」と厳しくコメント。アジア選手権では「試合以外の調整から学んできてほしい」と、試合翌日の合宿から気持ちを引き締めることを望んだ(右写真=嘉戸コーチと伊藤)

 アジア選手権の目標は「優勝したいけど、とりあえず表彰台」とメダル圏内を狙っていく。闘うスタイルは片足タックルからグラウンドに持ち込むこと。グレコローマン出身の嘉戸監督にローリングは逐一チェックされている。JOC杯でも完ぺきに見えるローリングを何度も披露したが、「注意されました」と嘉戸監督から合格点はもらえなかった。現在のグラウンドの技術がアジアでどれだけ通用するかが楽しみなところ。

 全日本女子選手権で女王・正田に「後輩だし、一番やりたくない選手」と言わしめた伊藤。正田超えを目指す伊藤のアジア・デビューはいかに。

(文・撮影=増渕由気子)


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