【全日本女子選手権優勝選手】55kg級・吉田沙保里(ALSOK綜合警備保障)【2009年4月6日】



 55s級で吉田沙保里(ALSOK綜合警備保障)が優勝し、大会8連覇を飾った(左写真)。昨年8月の北京五輪から、10月の東京・世界女子選手権、12月の天皇杯全日本選手権とノンストップだった吉田は、約3ヶ月間実戦から離れながらも、「ロンドン五輪で三連覇」をモチベーションに今大会も出場。目標は「無失点で全試合フォール」だった。

 しかし1回戦から思わぬ展開となった。同門の後輩・吉田理乃(中京女大2年)との初戦で開始早々にバックを奪い、腕を取ってフォールの体勢へ。だが、強引にフォールを奪おうとしたことが裏目となる。吉田理乃は必死にこらえると、無理にフォールを狙った吉田沙保里を逆に押さえ込んだ。そのとき、吉田沙保里の両肩がわずかながら着き、“瞬間フォール”の体勢になり、必死にブリッジするはめになってしまった。

 会場がどよめく中、吉田理乃に2点が入る。最後は実力の違いを見せて勝ったが、吉田が日本選手相手に失点を許したのは、2004年2月23日に行われたアテネ五輪最終選考会を兼ねたジャパンクイーンズカップの決勝、山本聖子戦以来、約5年ぶりのことだ。

 2回戦と準決勝は吉田ワールドがさく裂したが、決勝の松川知華子(ジャパンビバレッジ)戦でもこの日2度目の失態を犯してしまう。第2ピリオド開始50秒、吉田が完全に松川をコントロールし、バックを取ろうとした瞬間、「相手が反応してきたのに、私の体が落ちてしまった」と、ちょっとしたミスで松川にバックポイントを許した(右写真)。大会2度目の失点。10度を超える松川との対戦で、先制点を許したのは初めてのことだ。その後は気持ちを切り替えて、得意の片足タックルから綺麗にフォールして見せたが、吉田に満足感はなかった。

■今後も長期休養の予定はなし「ここで休んでいる場合ではない」

 試合後のインタビューで吉田は「気持ちが空回りしていた」と反省の弁。「無失点で全試合フォール」で8連覇を決め、ロンドン五輪3連覇へ幸先のいいスタートを切る予定だったが、「このままでは3連覇はできない」と気を引き締めた。5月のアジア選手権(タイ)は欠場し、次は9月の世界選手権(デンマーク)に照準を合わせる。今後も長期休養の予定はない。「ロンドン五輪での目標があるので、ここで休んでいる場合ではない」とキッパリ言い放った。

 歯切れのよかった前日の計量から一転、反省ばかりが残る試合内容になったことで、一からの出直しを図ることになった吉田。北京五輪で涙の金メダルに輝いた後に、「(国際大会119連勝が途切れた)去年の中国ワールドカップの負けがあったからオリンピックで勝てた」と、黒星がさらなる成長のきっかけとなったことを認めている。

 雨降って地固まる―。“負けに近い”白星を糧に、吉田がさらに進化する。

(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)


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