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【特集】今年の目標は世界王者…全日本王者の米満達弘が自衛隊体育学校に入校【2009年4月17日】

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 全日本選手権の男子フリースタイル66kg級の現役チャンピオン、米満達弘(拓大卒)が4月15日、自衛隊体育学校に入校した。自衛隊は世界で活躍する選手を多く輩出している。学生時代から世界トップ級の実力を持っていた選手もいたが、自衛隊に入隊してから力をつけた選手の割合の方が多い。女子を除くと、現役全日本チャンピオンが入校するのは、北京五輪グレコローマン96kg級代表の加藤賢三(自衛隊)以来5年ぶり。フリースタイルに至っては、本田多聞までさかのぼる。

 学生で全日本チャンピオンになるのは至難なことだが、卒業後の進路は一般企業や大学院、助手がほとんどだ。米満は「レスリングだけに集中できる環境でやりたかった」と自ら自衛隊に志願。最初は高卒で入校することも考えていたほど、進路は自衛隊一本だった。


タイトル総なめの2008年だが、最大の目標を達成できずに「不完全燃焼」

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 中学で柔道を経験した米満は、山梨・韮崎工高でレスリングを始める。高校時代に国体と全国高校グレコローマン選手権を制すると、高い目標を掲げた。それが“世界チャンピオン”と“オリンピック・チャンピオン”だった。「大学に行くなら最大の目標を達成したい」と思って進学した拓大では、3年で学生チャンピオンになった。4年では敵なしの強さで学生選手権2連覇、12月の全日本選手権では拓大から4年ぶりの学生チャンピオンに輝いた。

 学生界のタイトルを総なめにしたほか、世界学生選手権(ギリシャ)でも金メダル。そして全日本選手権では初優勝と、2008年は米満にとって過去最高の成績を収めた年だったが、「自分が思っている一番の目標を達成していないので」と不完全燃焼だったことを強調した。

 まさに“ミスターストイック”。五輪・世界チャンピオンを目指す米満は、マット以外でも頭にあることは“レスリング”だ。「趣味はないです。何もしていない時もレスリングのことを考えてしまいます」。

 筋肉質で減量苦も心配されるが、日頃からの節制にも注意を払っている。お酒に関しても「“飲めない”のではなく、“飲まない”のです」と、競技のマイナス面になりそうなものは一切しない。「減量は大丈夫です。今後、74kg級に上げることもありません」と、3年後のロンドン五輪は66kg級で目指すと宣言した。

 全日本王者という肩書きをひっさげて鳴り物入りの入校となった米満だが、上には上がいた。入校式に臨んだ体育特殊技能者採の20人の中には、北京五輪に出場したボクシングの清水聡(駒大卒)が含まれていた。“北京五輪とロンドン五輪で2連覇”という目標を掲げていた米満は、「先を越されてるなと思った」と少し悔しそう。それでも、清水とは同じ階級。「2等陸曹で採用されたからには、いい成績を残さないと駄目だなと思います」と階級の重みを感じていた。


小島豪臣(K-POWERS)を破って“真の日本代表”を勝ち取れるか

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 自衛隊選手として最初の試合になるのが、5月のアジア選手権(タイ)だ。「ナショナルチームとしての初の試合です」と、JAPAN公式シングレットでの試合を心待ちにしている様子。代表シングレットをまとって練習する選手を見て「うらやましいと思っていた」と言う米満が、ついに本当の世界デビューを果たす。

 目標はもちろん優勝。その後のプランも、「(6月の)全日本選抜選手権で勝って、世界選手権で金メダルです」と話した。その最大の壁となるのが、2006年世界選手権代表の小島豪臣(K-POWERS)だろう。12月の全日本選手権は不慮のけがで大会を途中棄権したが、2006年のアジア大会(カタール)で銀メダルを獲得した小島を優勝候補の一番手に挙げる声は少なくない。

 全日本のタイトルは取った米満は、北京五輪代表の池松和彦(福岡大助手)には全日本の舞台で2度も白星を挙げていながら、小島には不戦勝を除くと一度も勝ったことがない(右写真:昨年6月の全日本選抜選手権決勝で小島=赤=と闘う米満)。敗因ははっきりしている。遠間からのタックルを得意とする米満と、近間で組むレスリングをする小島。二人の間合いは正反対。その間合いを制することができずに試合が終わることが多い。「自分のペースに持って行くこと」が米満の課題だ。そのため、組み手の強化にも力を入れている。

 もともと選手育成では定評のある自衛隊。高校・大学時代に無冠でも、そこから花開いた選手がたくさんいる。伊藤広道・新監督は「米満は有望な選手。学生時代からひたむきに努力していて、自衛隊のチームカラーに合う」と太鼓判を押した。

 「自衛隊のラッパはまだ慣れていません」と、初々さ満開の自衛隊員・米満の2009年の活躍はいかに―。

(文・撮影=増渕由気子)


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