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【特集】元学生王者率いる創部1年のチームが二部3位入賞! 飛躍が期待される九州共立大【2010年5月日】

(文・撮影=樋口郁夫)
 


 5月22〜23日に大阪・堺市金岡公園体育館で行われた西日本学生春季リーグ戦で、初出場の九州共立大(右写真)が二部リーグで3勝(2敗)をマーク。3位に食い込んだ。昨年4月に創部し、歴史は1年1ヶ月。部員数は6人(うち1人は負傷欠場)。健闘と言えるだろう。

 現場で指揮するのは、日体大時代の2006年に全日本学生選手権のグレコローマン66kg級で優勝した藤山慎平コーチ
(右写真の後列左端)。五輪選手の笹本睦(グレコローマン60kg級)松本慎吾(同84kg級)の練習相手を兼ねて3人で欧州遠征をしたこともある強豪選手だ。

 「初出場初優勝を狙っていたんですけど…。ちょっと高く求めすぎたかな」と無念そうな表情。「今の2年生が4年生になる時」、すなわち2年後には「二部リーグで優勝して一部へ上がる」と計画を控えめに修正し、今後に燃えている。

■4月のJOC杯ジュニアオリンピックでは1年生部員が3位入賞!

 大学を卒業後、大学院で勉強し、昨年4月、恩師の福田敬治氏(現在はレスリング部の監督=国士大OB)に声をかけられて地元・北九州市にある九州共立大の職員へ。福田監督のもとでレスリング部を作り、部員3人でスタートさせた。レスリング経験者を集めることができたのは幸いだったが、日体大で練習していた人間にとって、3人での練習には大きなギャップを感じたことだろう。「毎日、ボクが回されていたようなものです」と笑う。

 それでも、大学院時代に東京の自由ヶ丘学園高で選手を指導していたことがあり、「小人数のチームで教える経験はあり、役に立ちました。日体大での練習経験は捨てました。全く違うものと思って指導しています」と言う。

 今春、3人の新人が入って部員が6人に増えた。「やっと練習らしくなりました。楽しいです」。部員は体育寮に住んでいる。自らはその近くに住み、授業後の練習のみならず朝練習から指導している。4月のJOC杯ジュニアオリンピックでは、森本慧伍(1年=三重・久居高卒)がグレコローマン96kg級の3位に入賞。上昇ムードができ、チームを引っ張るやりがいを肌で感じ始めたようだ
(左写真=リーグ戦で闘う森本)

 グレコローマン専門の選手だったため、大学時代にはフリースタイルで行われる団体戦(東日本学生リーグ戦、全日本学生王座決定戦)に出場したことがなかった。それがゆえに、「リーグ戦で一旗上げてやろう」という気持ちは強い。

 専門ではなかったフリースタイルだが、「レスリングの基本は同じ」と指導に問題はない。日体大では、2008年北京五輪銅メダリストの湯元健一(60kg級)や2006年アジア大会銀メダルの小島豪臣(66kg級)らと行動をともにすることが多く、フリースタイルの基本も頭の中に入っている。基本を教え、時に兄・光太郎さんがコーチをやっている福岡大に出げいこして選手の育成に努めている。

■強くなる王道は猛練習だが、その前にやることは…

 指導理念は「楽しくレスリングをやること」。ともすると誤解される言葉だが、決して「遊び感覚で」という意味ではない。笹本、松本、湯元といった五輪選手を間近に見ているだけに、強くなる秘訣が猛練習にあることは、だれよりも肌で感じている。「あの練習を見たら…。安易に『オリンピックを目指す』とは言えませんでした。それをやっていた小島先輩であっても五輪には行けなかったのですから」。
(右写真:2007年7月、笹本、松本とともに遠征したグルジアの国際大会で闘う藤山コーチ=撮影・保高幸子)

 しかし、全日本トップ選手がやっている猛練習を現在の部員に求めるつもりはない。強くなるためには、まず自発的にマットに上がる気持ちになること。嫌々ながらやる練習では意味がない。これは自らの経験によるものだ。福岡・北九州高時代に国体3位の成績がある藤山コーチだが、日体大では学生トップ選手のみならず全日本トップ選手に囲まれ、最初の頃は毎日、「やめよう」と思いながらマットに上がっていたという。

 汗を流す面白さを教えてくれたのが、湯元や小島らの先輩たちだ。特に小島にはかわいがられた。「休みの日に『走るぞ!』とランニングに連れていかれ、内心、『何で休みの日に練習するんだ』って不満いっぱいだったんですよ。でも、そうやっていくうちに、『これだけ練習しているんだ、負けたくない』って気持ちになっていきまして…」。

 率先してマットに上がるようになれば王者の道が見えてくる。学生王者に上り詰めたのは、やる気をもった練習の成果だった。「藤本英男部長、安達巧監督(ともに現在は退任)も選手の意識を高めることがうまかったです。まず気持ちです」と振り返る。選手のやる気をどう引き出すかが、指導者にとって一番大切であることを経験で知っている。

■スポーツ推薦枠は十分にあり、強豪選手を集めて一部優勝へ!

 大学のサポートも力強いものがある。授業料免除などの待遇はないものの、推薦入学でとれる枠は大きく、「来るものは拒まず」という姿勢で選手を受け入れることができる。野球で有名な九州共立大だが、「レスリングもやっていることを知ってほしいです。九州の強豪選手は、関門海峡を渡ってほしくない(=本州の大学に行ってほしくない)」。

 JOC杯の3位に選手が入り、リーグ戦で順位を上げてその名が浸透していけば、すぐに「部員数名」のチームから脱却し、優勝を目指せるチームをつくることができるだろう
(左写真=セコンドにつく藤山コーチ)

 西日本には、今月のアジア選手権(インド)で銅メダルを取った磯川孝生(拓大OB)が徳山大コーチをやっているほか、日体大OBがちらばっている。「会う度に、西日本を盛り上げよう、という話になるんですよ」。元学生王者の藤山コーチの参入で、そのムードが盛り上がることは間違いない。

 西日本学生界の飛躍につながるような九州共立大の躍進が期待される。


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