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【特集】逝去の祖父に捧げる2階級制覇…新人戦最優秀選手の佐々木晋(拓大)【2010年6月17日】

(文・撮影=増渕由気子、JOC杯撮影=保高幸子)

 

 6月8日〜10日まで東京・駒沢体育館で行われた東日本学生春季新人戦で、グレコローマンの最優秀選手(MVP)に輝いたのが、昨年春季の55s級に続いて60s級を制した拓大の佐々木晋(静岡・飛龍高卒=右写真)。長い手足を生かして、本来より上の階級でも全試合で失点1という内容で優勝を遂げた。

 優勝の瞬間、目に浮かんだのは今月4日に81歳で他界した祖父・川口辰二さんのこと。佐々木が「毎回必ず見に来てくれた。去年の優勝のときは一緒に写真を撮りました」と振り返るように、孫の活躍を常に会場で見守っていた。

 だが、4月末のJOC杯ジュニアオリンピックの時には、川口さんの具合が悪く、会場での応援は中止。佐々木は祖父に金メダルと世界ジュニア選手権の切符を手土産にしようと誓った、しかし、優勝どころか3位という不本意な結果に終わってしまった。

 それだけに、次の闘いである今回の新人戦へかける意気込みは半端ではなかった。「祖父に絶対にいい報告をする」−。だが、猛練習を積んでいた矢先に祖父が他界。「死ぬ前の約束を破ったままになってしまった。落ち込みました」という。

 精神的に試合ができる状態ではないことに加え、葬儀が大会の計量と重なることから、西口茂樹部長からは「試合は出なくてもいい」と言われた。だが、佐々木はJOC杯で果たせなかった祖父との約束を果たすため、“最後のお別れ”より、試合を選んだ。「祖父は、僕がレスリングをやることを喜んでくれると思った。優勝する姿を(天国から)見てもらいたい」。通夜・葬儀には参列せず、心の中で祖父に別れを告げた。

 それだけに、2階級制覇、そしてグレコローマンのMVPは「うれしい」と笑顔。拓大OB会の宮澤正幸最高顧問によると、母・裕子さんから祖父の霊前と入院中の祖母に優勝の報告がなされたという。

 次の目標は8月末の全日本学生選手権(大阪)で優勝すること。「スタンドから攻めてグラウンドにつなげるレスリングをしたい。JOC杯で負けている青木成樹(青山学院大)にもリベンジしなくては」。
(左写真=JOC杯の表彰式。右から2人目が佐々木、左端が青木)

 大好きな祖父に捧げる2階級制覇を達成した佐々木は、次は学生王者の肩書きを目指す。



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