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【特集】養護学校所属の宇野信之(島根・隠岐養護学)が個人戦で準優勝【2010年8月8日】

(文・撮影=池田安佑美)



 沖縄インターハイの個人対抗戦120s級決勝戦。優勝候補の前川勝利(茨城・霞ヶ浦)への挑戦権を得たのは、第4シードの宇野信之(島根・隠岐養護学校=右写真)だった。結果は2位に終わったが、関係者によると、島根県勢が決勝に進むのは史上初の快挙だという。

 宇野は知的養護学校に通っている。小さい頃から相撲にあこがれ、その土台を作るためにレスリングに取り組んでいる。隠岐擁護学校に進学の際、レスリングを続けたい意思を示したところ、周囲の関係者たちが「宇野君の夢を応援したい!」と動き出した。

 隠岐諸島でレスリング部があるのは、今大会の学校対抗戦に出場した隠岐島前のみ。隠岐養護学校は、同じ隠岐諸島ながら別の島にあり(隠岐島前が「島前」、隠岐養護学校が「島後」)、船を使わねければ往来はできない。宇野の夢をかなえるため、特別措置としてレスリング部のある隠岐島前で下宿生活をしている。授業は、隠岐擁護学校から重吉伸一教諭ほか3人の教師が日替わりで島を渡って指導しに来る。

 幸運なのは、重吉教師が日体大の空手道部出身だったこと。重吉教師は「レスリングのことは、あまりよく分かりません」と話すが、空手道で培ったスポーツの精神論はレスリングにも応用できる。「宇野を限界まで追い込むことを手伝っています」と言う。

■「できない思い込んだら、あきらめてしまう」という欠点を是正!

 レスリングの指導は、隠岐島前の澤谷隆成監督がサポートしている。澤谷監督は、宇野の欠点を「できないと思い込んだら、あきらめてしまうこと」と挙げる。王者の前川は言うに及ばず、全国高校選抜大会の準決勝で負けた茂木一浩(栃木・足利工大付)にも、勝つことは無理と最初から決め付けていたという。その欠点を、この半年で取り払うようにサポートしてきた。

 大一番だったその茂木との準決勝。第1ピリオドはあっさりと落としてしまったが、半年間で茂木に勝てる自信がついたのか、逆転勝ちして決勝進出。島根県勢としての初の快挙を達成した。

 重吉教諭は「ハンデがあっても、やればできる。求めてくれば、私たちができることはいくらでもサポートする」と話す。表彰式を終えた宇野は、うれしそうに、そして誇らしげに銀メダルを掲げてキッパリと言った。「将来は相撲選手になります」。多くの人に支えられて宇野の夢が、また一歩前進した準優勝だった
(左写真=宇野と重吉教諭)



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