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【特集】驚異的な得点能力! 出遅れた逸材が本領発揮…55kg級・太田忍(山口・柳井学園高)【2010年8月19日】

(文=樋口郁夫)



 全国高校生グレコローマン選手権55kg級は、2007・08年に全国中学生選手権を連覇した太田忍(山口・柳井学園高=右写真)が1回戦から決勝までの6試合に失ピリオド「0」という内容で優勝。進学後、初の全国タイトルを手にした。

 「去年のインターハイ、国体、今年の高校選抜といずれも2位。いつもタイトルを目の前にして取れなかったので、本当にうれしいです」と第一声。グレコローマンは“本職”ではなく、大会前の1週間ほどしか練習ができなかったが、それであっても「うれしい」と言う。

■ユース五輪での高橋侑希の優勝を聞いて燃えた!

 中学時代にすばらしい成績を残して高校へ進学した。しかし昨年のインターハイ50kg級決勝で山崎達哉(東京・自由ヶ丘学園)に敗れて1年生王者を許してしまった。そのインターハイでは55kg級も高橋侑希(三重・いなべ総合学園)が1年生王者に輝き、2人のルーキー・イヤーの主役を奪われてしまった。リベンジを試みた国体でも山崎に黒星。

 今年3月の全国高校選抜大会でも決勝で山崎の壁を越えられなかった。4月のJOC杯ジュニアオリンピック54kg級準々決勝でやっと山崎の壁を撃破。これで一皮むけるかと思われたが、続く準決勝で、今度は高橋侑希に敗れ、“新星”の仲間入りをすることはできなかった。正式に階級をアップし、満を持して挑んだ今月のインターハイでも、高橋に1−2で黒星。どうしても全国一が遠かった。

 この日の朝、シンガポールで行われているユース五輪で高橋が優勝したというニュースが入ってきた。これで燃えないわけにはいかない。「絶対に優勝する」と燃えて挑んだ大会だった。

 グレコローマンは得意なタックルが使えず、やり辛さは感じる。しかし、試合では胴タックルからそり投げなどを決めることができ、グラウンド攻撃もフリースタイルの時以上に決まったという
(左写真=決勝でもガッツレンチを決める、青が太田)

6試合(ピリオドスコア12−0)のポイントは「86−17」。1ピリオドあたりの得点は7・2点となり、驚異的な得点能力。約1週間のグレコローマンの練習で、学んだものを実戦で使えるようになるのだから、やはり非凡な才能の持ち主なのだろう。

■遅くとも来年3月には、ユース五輪王者に再挑戦!

 よく「グレコローマンの強い選手は、フリースタイルをやらせても強い」と言われる。その言葉は太田も耳にしており、「今回の優勝を機に、フリースタイルでももっと強くなりたい」と言う。

 もちろん、この優勝で100パーセント満足というわけではない。高橋を破っての優勝でなければ納得できない。今年の千葉国体は、山口県の事情で今回優勝したグレコローマンでの出場もありうるという。それは県の方針に従うそうだ。しかし「打倒高橋」の思いに変わりはない。遅くとも来年3月の全国高校選抜大会では、“全国チャンピオン”の肩書きをもって高橋への挑戦が実現しそうだ。

 太田を青森県から引っ張り、自らの家に下宿させてレスリングをやらせている山口県の勝村靖夫会長は「思い切りのよさが彼の持ち味」と評価。グレコローマンの技は教えていないのに、自分で開発して実行するだけの才能があると舌を巻く。「この優勝を機に、フリースタイルでも飛躍してほしい。優勝には、それだけの力がある」と、今後に期待した。



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