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【特集】世界選手権へかける(8)…女子59kg級・正田絢子(京都・網野高教)【2010年8月16日】

(文=樋口郁夫)
 


 男女21階級の中で、唯一、世界選手権の日本代表決定が持ち越された。だが、全日本合宿を“皆勤”し、実力を見せつけて世界選手権へのキップを取り戻した。女子59kg級の正田絢子(京都・網野高教)が2年ぶりに世界選手権のマットに上がり、5度目の世界一を目指す。

 「遅れてしまったけど、みんなと同じラインに立てたのは、とてもうれしいことです。出られるうれしさだけではなく、世界一になってのうれしさを感じたい」。代表決定が持ち越された悔しさは、当然あるだろうが、その気持ちを封印。前を向いている正田がいる。

■東京・世界選手権の時より、レベルは高い!

 つまずきを世界選手権に生かそうという姿勢もあり、過去に盲目になっているわけではない。「全日本選抜選手権でメダルも取れなかったのは事実だし、反省すべきところはたくさんありました」。本戦で優勝し、プレーオフにもつれることがなければ、すんなりと代表に決まったことだろう。「勝たなければダメなんですよね」。

 勝負の世界は勝たなければならないことを、自分自身は痛感し、網野高の教え子に対しては痛感させた出来事だった。「いい教訓になりました。マイナスではありません。プラスとして受け止めています」。勝負の世界の掟(おきて)を再認識できたことは、世界一奪還へ向けて大きなパワーになりそうだ。

 出場した大会として考えれば連続優勝を目指すことになるが、「去年出ていないので、やはり挑戦者です。攻めるレスリングを忘れないようにしたい」と話し、攻撃レスリングが今年の課題。「ポイントをたくさん取るタイプではないので、少ないチャンスに確実にポイントを取っていく自分のレスリングをしていきたい」と言う。

 2年前の世界選手権は、東京開催ということで、楽な部分はあった
(右写真=4度目の世界一に輝いた正田)。今回は言葉の通じない敵地へ乗り込んでの出場。「緊張感は違います」。まして、2008年は北京五輪の直後で、出場選手はどの階級も若手が多かった。今回は、2012年ロンドン五輪へ向けて、59kg級で弾みをつけようとする選手の出場が多数予想される。

 「国籍を変えてでもオリンピックを目指す選手もいて、ハングリーさを感じます。2008年大会より、レベルは高くなっていると思います」。3月のワールドカップ(中国)では劉風鳴(リウ・フェンミン=中国)に負けており、これも刺激材料。気を引き締める材料は多い。

 劉風鳴は5月のアジア選手権(インド)でも優勝しており、世界選手権にも出てくる可能性は高い。他に、2005年大会(ハンガリー)の決勝で闘ったマリアンナ・サスティン(ハンガリー)の成長も感じられる。昨年の世界チャンピオンのユリア・ラトケビッチ(アゼルバイジャン)は、今年7月のゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)は5位だったが、世界一に輝いた選手だけに、あなどってはなるまい。

■優勝回数への思いはなし! あるのは、教え子の見本になる気持ち

 北京五輪出場を目指していた時は、ジャパンビバレッジの社員として、いろんなサポートを受けており、レスリングにだけ専念できた。今は高校教員としてマット以外でもやらなければならないことは多い。その分、世界で勝つことの気持ちが小さくなったかというと、決してそんなことはない。

 世界での優勝回数への思いか? 今回、5度目の優勝を達成すれば、世界の女子レスリング界における優勝回数で6位タイとなる。後世まで名前の残るであろうところに到達したことになり、いずれは国際レスリング連盟(FILA)の殿堂入りという栄誉も見えてくる。だが、優勝回数に対する気持ちは「全くありません。周りからよく言われますけど」と言う
(左写真=全日本合宿で練習する正田)

 今の正田を支えているのは「教え子に対する見本にならなければ」という気持ち。「これだけやって勝てた、ということを教えたい。教え子を育てることも大事ですが、自分ができる限りは頑張って、その姿を見せたいと思います」。第2の故郷の網野だけでなく、キッズ時代をすごした大阪・吹田市民教室に対しても、「押立代表が亡くなって、ちょっと元気がないです。元気を与えたいです」と言う。

 「体力は若手に引けをとる部分はあるでしょう。そこはキャリアでカバーしたい。世界一への気持ちは以前と全然変わりません」と言う正田。2年ぶりの世界選手権での活躍は?


 正田絢子(しょうだ・あやこ)=京都・網野高教、2年ぶりの6度目出場
 1981年11月3日、大阪府生まれ。28歳。京都・網野高〜東洋大卒。大阪・吹田市民教室でレスリングを始める。98年JOC杯ジュニア58kg級で優勝するとともに、16歳で全日本選手権62kg級で優勝の殊勲を挙げた。99年に世界選手権に初出場初優勝。00年はアジア選手権と世界ジュニア選手権で優勝し、01年もアジア選手権で優勝した。
 その後、負傷の治療で低迷していたが、03年にアジア選手権63kg級で優勝。05年に59kg級へ落とし、ワールドカップ、ユニバーシアード、世界選手権と優勝。06年は世界選手権で連覇した。07年の世界選手権は7位に終わり、72kg級での北京五輪挑戦を実らなかった。08年の世界選手権59kg級で優勝し4度目の世界一へ。09年は世界選手権の出場を逃したが、全日本チャンピオンに輝いた。163cm。



◎正田絢子の最近の国際大会成績

 《2010年》
 【3月:ワールドカップ=団体戦(中国)】

3位決定戦 ○[2−0(1-0,3-2)]Iryna Husyak(ウクライナ)
予選3回戦 ○[2−0(3-0,1-0)]Katie Patroch(カナダ)
予選2回戦 ○[2−0(3-0,2-0=2:15)]Ekaterina Melnikova(ロシア)
予選1回戦 ●[0−2(1-2,0-3)]Liu Fengming(劉風鳴=中国)

 《2009年》
 
【11月:NYACホリデー国際大会(米国)】優勝(12選手出場)
決  勝 ○[2−1(0-1,1L-1,3-1)]Deanna Rix(米国)
準決勝 ○[2−0(3-1,1-0)]Kelsey Campbell(米国)
2回戦  ○[2−0(4-0,1-0)]Melissa Aqodaca(米国)
1回戦   BYE

 《2008年》
 
【10月:世界女子選手権(東京)】優勝(22選手出場)
決  勝 ○[フォール、1P1:38(F3-0)] Golts Natalia(ロシア)
準決勝 ○[フォール、1P1:37(F4-0)] Mursalvoa Elvira(アゼルバイジャン)
3回戦  ○[2−0(1-0、4-0)]Rix Deanra(米国)
2回戦  ○[フォール、1P0:55(F6-0)]Kiiazova Nestan(キルギス)
1回戦   BYE

 《2007年》
 【9月:世界選手権(アゼルバイジャン)】
7位(20選手出場)
3回戦 ●[1−2(1-0,0-1.2-0=0:12)]Nataliya Synyshyn(ウクライナ)
2回戦 ○[フォール、2P1:26(2-0.F4-0)]Agata Pietrzyk(ポーランド)
1回戦 ○[2−0(@L-1,1-0)]Leigh Jaynes(米国)



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