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【特集】世界選手権へかける(11)…女子63kg級・伊調馨(ALSOK)【2010年8月22日】

(文=増渕由気子)



 2004年アテネ・2008年北京両五輪女子63s級金メダリストの伊調馨(ALSOK=左写真)が、3年ぶりに世界選手権の舞台へ戻ってくる。北京五輪後は約1年間のカナダ留学を経て、昨年12月の全日本選手権で復帰。今季から2012年ロンドン五輪に向けて本格的に復帰した。

 世界選手権の2週間前となったが、首のけがにより、時に左腕に電気が走ることがある状況だという。「その時は完全に動けなくなるんですけど、けがは毎年のことなので」と、試合に影響なしとさらりと話した。

■男子レスリングと接し、レスリングの奥深さを知った

 「姉妹で金」という北京五輪までのスローガンの象徴でもあった姉・千春は、今季から青森県で高校教師になり、別々の道を歩むことになった。加えて練習拠点を東京に移したこともあり、ロンドン五輪に向けて、伊調を取り巻く環境は大きく変化している。

 組んでよし、離れてよしとマルチレスラーとして知られる伊調。レスリング・スタイルは完ぺきと評価も高い。だが、伊調は自分のレスリング満足していなかった。「今までは本能でやっていて、まったく考えていなかった。自分のレスリングも確立できていない」
(右写真=全日本合宿で練習する伊調)

 きっかけとなったのは、練習拠点を東京に移し、男子の全日本合宿や、自衛隊、各大学で男子と練習する機会が増えたこと。女子に比べて、男子はとても理論的なことに驚かされた。「私はタックルひとつをとっても、言葉で論理的に説明できないのに…」。男子レスリングは世界最古のスポーツとして知られている。その歴史の深さに出合った。

 アテネ五輪で金メダルを獲得してからは、その女王の座を維持するためのレスリングだった。「マンネリ化して面白くない」と振り返る。五輪3連覇を目指すには、伊調自身を熱くさせる何かが必要で、その刺激が伊調にとって“男子レスリング”、つまりIDレスリングだった。

■2012年ロンドン五輪までの目標は、「伊調馨のスタイル確立」

 男子と女子は競技として根本的に違うと言われる。男子に比べて女子は体の関節が柔らかく、男子での論理が通用しないことも多々ある。男子と練習することで女子の競技力が上がるとは一概に言えない。それでも、伊調はその論理的思考に触れたとき、「すごいなぁ。今までレスリングをここまで考えていなかった」と目を丸くしたという。

 「自分がやりたいことを10パーセントもできてないんだけど、練習が楽しいんです。まるで初心者になった気分」。五輪2連覇、世界選手権も5回優勝と、記録や名誉は申し分ないほど手に入れている。北京五輪直後は「引退します」と口を滑らせたほど目標を見失った瞬間もあった。それだけに、“伊調馨のスタイル確立”という目標は、姉妹で金という目標から、五輪3連覇にむけて最強のモチベーションになっている。

 目の前に迫った世界選手権の抱負も「結果にこだわりはない。攻めのパターンなどを試してみたい。結果は今まで十分に味わってきたから、今回は“レスリング”を味わいたい」。
(左写真=3月のワールドカップは4戦全勝だった伊調)

 自分のレスリングを確立させることにこだわりを見せた。9月世界選手権、今までと違った新しいカオリンが見られるかもしれない。


 伊調馨(いちょう・かおり)=ALSOK、3年ぶり6度目の出場
 1984年6月13日、青森県生まれ、26歳。愛知・中京女大附高〜中京女大卒。96年全国少年選手権優勝、98年全国女子中学生選手権52kg級などで優勝を重ね、01年ジャパンクイーンズカップ56kg級で現役世界チャンピオンの山本聖子をフォールで破る大殊勲を達成。
 同年の全日本女子選手権は4位に終わったが、02年はアジア大会銀メダルのあと、世界選手権に初出場初優勝。03年に世界を連覇し、04年アテネ五輪でも優勝。05年はワールドカップ、アジア選手権、ユニバーシアード、世界選手権、06年はワールドカップ、世界選手権、アジア大会と優勝を重ねた。
 07年も世界選手権で優勝し、08年は北京五輪で2連覇を達成した。その後、約1年間休養し、カムバック。166cm。



◎伊調馨の最近の国際大会成績

 
《2010年》
 
【3月:ワールドカップ=団体戦(中国)】個人優勝
決    勝 ○[2−0(2-0,1-0)]Maryana Kvyatkovska (ウクライナ)
予選3回戦 ○[2−0(1-0,4-1)]Justine Bouchard(カナダ)
予選2回戦 ○[2−0(1-0,2-0)]Natalya Lavshkina(ロシア)
予選1回戦 ○[2−0(1-0,1-0)]Cui Haili(崔海麗)

 
 《2009年》
 【10月:ディノス招待トーナメント(カナダ)】優勝(7選手出場)
決  勝 ○[2−0(2-0,3-0)]Danielle Leppage(カナダ)
準決勝 ○[フォール、1P(5-0)]Brittany Cochran(カナダ)
1回戦  ○[フォール、1P(F4-0)]Tessa Plana(カナダ)

 《2008年》
 【8月:北京五輪(中国)】優勝(17選手出場)
決  勝 ○[2−0(1-0=2:30,2-0=2:04)]Alena Kartachova(ロシア)
準決勝 ○[2−1(1-0=2:30,0-1,@L-1)]Martine Dugrenier(カナダ)
3回戦  ○[フォール、2P1:20(3-0,F4-0)]Randy Miller(米国)
2回戦  ○[フォール、2P0:46(2-0,3-0)]Olesia Zamula(アゼルバイジャン)
1回戦   BYE

 
【3月:アジア選手権(韓国)】優勝(8選手出場)
決  勝 ○[2−0(TF6-0=1:17,1-0)]Odonchimeg Badrakh(モンゴル)
準決勝 ○[2−1(2-0,0-1=2:04,2-0)]Shalygina Yelena(カザフスタン)
1回戦  ○[2−0(4-0,1-0)]Ge Zhen(葛珍=中国)

 《2007年》
 
【9月:世界選手権(アゼルバイジャン)】優勝(36選手出場)
決  勝 ○[2−0(1-0,3-0)]Yelena Shalygina(カザフスタン)
準決勝 ○[2−0(4-2,3-0)]Lise Legrand Golliot(フランス)
4回戦  ○[2−1(2-0,0-1,1-0)]Xu Haiyan(中国)
3回戦  ○[フォール、1P1:56(F7-0)]Yoselin Rojas Urbira(ベネズエラ)
2回戦  ○[2−0(2-1,1-0)]Sara MacMann(米国)
1回戦   BYE

 
【5月:アジア選手権(キルギス)】9位(9選手出場)
1回戦 ●[不戦勝] Hou Min-Wen(台湾)



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